「イベントーク」は、開館記念事業としてスタートして以来、好評を得、毎年、継続的に開催している
オリジナル企画である。今日、芸術や哲学においてのみならず、社会的な関心が持たれているキーワード「身体」を
統一テーマに据えて、芸術のジャンルを横断し、複合的な構成を意図するという、その企画のユニークな独自性が高く
評価されてきた。
今回は、愛知県美術館で同時期に開催中であった企画展「アメリカン・ドリームの世紀展」とも関連性を持たせることを考慮し、
20世紀の大きな歴史的転換期ともいえる1960年代から70年代初頭に着目して、アメリカと日本の関係に焦点を当てた。当時の、
巨大な地殻変動ともいえる、文化的、精神的、身体的な変容を、これ以降顕在化していったポスト・モダン的状況も射程に
入れながら検証し、21世紀のゆくえを展望することを意図した。
1月17日のメイン・ゲストで、『養老天命反転地』などで知られるアーティストの荒川修作は、馬場駿吉との
対談の中で、60年代に渡米して以降、アメリカ美術や、その文化を批判的に乗り越えるべく独自の世界を構築してきた軌跡に
ついて語った。なかでも、渡米直後の荒川と、ニューヨーク・ダダを代表する美術家で、今日も20世紀美術の限界線を
規定したとされるマルセル・デュシャンとの、個人的な交流にまつわる興味深いエピソードは、この機会に初めて公に
されたものといえ、観客から驚きを持って受け止められた。
23日は、ポスト・モダンダンスの文脈において、アメリカで最も評価された日本人ダンサーのケイ・タケイを迎え、ソロ公演と
シンポジウムを行い、舞踊史においてアメリカが持つ意義を検証した。タケイの公演は、当時のミニマリズムとの関連を
想起させつつ、アメリカにおいて重視されたものがオリジナリティであることを体現するものとして、強い印象を残すものであった。
また、シンポジウムでのタケイの体験に基づく発言は、まさに当事者でしか語れない重みがあり、観客に興味深く受け止められた。
榎本了壱や國吉和子から、1920年代パリに対応した60年代ニューヨークの、都市としての芸術的な位置づけがされ、20世紀芸術を
統括する視点が提示されたことも特記されよう。
また今回は、新基軸としてその時代背景や空気を知る上で参考となる映画作品の上映会を併せて行った。初日となる
16日に上映した作品は、詩人・谷川俊太郎と音楽家・武満徹の共作『×』や、グラフィック・デザイナーである田名網敬一の
『グッドバイ・マリリン』『グッドバイ・エルビス&USA』、美術家マイケル・スノウの『波長』など、いずれも異なる
ジャンルのアーティストが取り組んだ実験映画で、美術家のアンディ・ウォーホルが『エンパイア』(1964)などの実験映画を
多作した例もあるように、ジャンルの境界を容易に横断して創作活動が行われた60年代の状況を色濃く反映するものであった。
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