荒川修作
* 荒川修作
  イベントーク Part9

  「アメリカの世紀」を超えて
  −モダニズム、ポスト・モダニズムから21世紀へ−
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プロローグ : 上映会「アーティストが手掛けた60-70年代の実験映画」
2001年1月16日(火) アートスペースA
  谷川俊太郎、武満徹 『×』 1960年 15分
田名網敬一 『グッドバイ・マリリン』 1971年 5分、
『グッドバイ・エルビス&USA』 1971年 7分
マイケル・スノウ 『波長』 1966-67年 45分
Act.1 : 「荒川修作を迎えて」
2001年1月17日(水) アートスペースA
第1部 : 映画上映 『フォア・エクザンプル』 監督:荒川修作、マドリン・ギンズ 1971年 95分
第2部 : 対談 荒川修作×馬場駿吉
Act.2 : 「ケイ・タケイを迎えて」
2001年1月23日(火) 愛知県芸術劇場小ホール
第1部 : ケイ・タケイ ダンス公演 『イザナギは不在』
音楽:佐藤聰明 美術:林昭男 2000年初演
第2部 : シンポジウム ケイ・タケイ×國吉和子×榎本了壱
エピローグ : 上映会「ダンスと映像の交点」
2001年1月24日(水) 愛知県芸術劇場小ホール
  イヴォンヌ・レイナー 『特権』 1990年 103分
ジョナス・メカス 『カップ/ソーサー/二人のダンサー/ラジオ』 1965-83年 23分
  司会・監修 : 萩原朔美
協力 : NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]、アンクリエイティブ、イメージフォーラム、
山形国際ドキュメンタリー映画祭、養老天命反転地

 「イベントーク」は、開館記念事業としてスタートして以来、好評を得、毎年、継続的に開催している オリジナル企画である。今日、芸術や哲学においてのみならず、社会的な関心が持たれているキーワード「身体」を 統一テーマに据えて、芸術のジャンルを横断し、複合的な構成を意図するという、その企画のユニークな独自性が高く 評価されてきた。
今回は、愛知県美術館で同時期に開催中であった企画展「アメリカン・ドリームの世紀展」とも関連性を持たせることを考慮し、 20世紀の大きな歴史的転換期ともいえる1960年代から70年代初頭に着目して、アメリカと日本の関係に焦点を当てた。当時の、 巨大な地殻変動ともいえる、文化的、精神的、身体的な変容を、これ以降顕在化していったポスト・モダン的状況も射程に 入れながら検証し、21世紀のゆくえを展望することを意図した。

 1月17日のメイン・ゲストで、『養老天命反転地』などで知られるアーティストの荒川修作は、馬場駿吉との 対談の中で、60年代に渡米して以降、アメリカ美術や、その文化を批判的に乗り越えるべく独自の世界を構築してきた軌跡に ついて語った。なかでも、渡米直後の荒川と、ニューヨーク・ダダを代表する美術家で、今日も20世紀美術の限界線を 規定したとされるマルセル・デュシャンとの、個人的な交流にまつわる興味深いエピソードは、この機会に初めて公に されたものといえ、観客から驚きを持って受け止められた。
23日は、ポスト・モダンダンスの文脈において、アメリカで最も評価された日本人ダンサーのケイ・タケイを迎え、ソロ公演と シンポジウムを行い、舞踊史においてアメリカが持つ意義を検証した。タケイの公演は、当時のミニマリズムとの関連を 想起させつつ、アメリカにおいて重視されたものがオリジナリティであることを体現するものとして、強い印象を残すものであった。 また、シンポジウムでのタケイの体験に基づく発言は、まさに当事者でしか語れない重みがあり、観客に興味深く受け止められた。 榎本了壱や國吉和子から、1920年代パリに対応した60年代ニューヨークの、都市としての芸術的な位置づけがされ、20世紀芸術を 統括する視点が提示されたことも特記されよう。

 また今回は、新基軸としてその時代背景や空気を知る上で参考となる映画作品の上映会を併せて行った。初日となる 16日に上映した作品は、詩人・谷川俊太郎と音楽家・武満徹の共作『×』や、グラフィック・デザイナーである田名網敬一の 『グッドバイ・マリリン』『グッドバイ・エルビス&USA』、美術家マイケル・スノウの『波長』など、いずれも異なる ジャンルのアーティストが取り組んだ実験映画で、美術家のアンディ・ウォーホルが『エンパイア』(1964)などの実験映画を 多作した例もあるように、ジャンルの境界を容易に横断して創作活動が行われた60年代の状況を色濃く反映するものであった。

馬場駿吉、荒川修作
 * 馬場駿吉×荒川修作


榎本了壱、ケイ・タケイ、國吉和子
 * 榎本了壱、ケイ・タケイ、
  國吉和子


『養老天命反転地』
 『養老天命反転地』


ケイ・タケイ『イザナギは不在』
 * ケイ・タケイ『イザナギは不在』

 こうした傾向は、翌17日に上映した荒川とマドリン・ギンズの共作『フォア・エクザンプル』にも通底している。 荒川・ギンズのこの映画は、二人の代表的な仕事の一つである『意味のメカニズム』のコンセプトを、映像において 展開したものといえる。それとともに、近年の奈義町現代美術館の作品や『養老天命反転地』などで追求されている、人間の 身体へのアプローチが、この映画では登場人物が周囲の環境に対応した特異かつ独特な動きを見せるという形で表われており、 『意味のメカニズム』と現在の結節点であるという解釈も可能だという意味で、極めて重要な、かつ作品的にも興味深い映画で あった。
また、ケイ・タケイの公演翌日の24日に行った上映は、ダンサー出身の映画監督イヴォンヌ・レイナーのドキュメンタリーと、 ジョナス・メカスが、65年当時、ケネス・キングのポスト・モダンダンス公演を記録した実験的な映画を上映する稀有な機会であり、 映画愛好家のみならず、ダンスに興味を持つ観客にもこうした映画を鑑賞する好機となった点で、さらに意義深いものになったと いえるだろう。

(越後谷卓司)

* 印の公演写真 撮影 : 南部辰雄
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