Seminar
  文化情報センター・ゼミナール :

  現代芸術のすすめ/より創造的に生きるために
前へ 自主企画事業報告書 > 2002年度 > 文化情報センター・ゼミナール 次へ
2002年6月5日(水)〜2003年1月22日(水)
全20回、オプション企画4回/アートスペースA、ほか
「文化情報センター・ゼミナール」は、私たちが生きる同時代に生み出された現代芸術に ついて、基礎的な理解を深めることを目的とした、通年による初心者向けの講義である。 平成11年度(1999年4月〜2000年2月開催)に「20世紀を編集する」のタイトルのもと、 第1回がスタートし、以後好評を得て継続して開催され、今回で4回目を数えている。

現代の芸術は、我々にとって最も身近な存在でありながら、20世紀に大きな転換を 経ていることもあり、ともすれば難解というイメージで捉えられがちだ。 しかしながらこの難解さは、実は表面上のことであり、その表現を受け止める一人一人が、 それぞれ独自の感じ方、受け止め方をし、理解、解釈を加えてゆくことが可能である点で、 自由で開かれた世界ともいえる。そしてこのことこそ、芸術と呼ばれる人間の創造活動の 最大の楽しさであり、醍醐味ではないか。こうした発想のもと、今年度は「現代芸術の すすめ/より創造的に生きるために」というタイトルを掲げ、一報通行ではない受講者からの 能動的な参加も考慮し開催した。

このゼミナールでは、文化情報センターが担当する現代芸術の分野である映像、 音楽、舞踏のほか、愛知県美術館の協力も得て、美術を加えた4ジャンルを軸に据え、 現代の表現を理解するための基礎的な事柄を学びながら、受講者がそれぞれの芸術観を 育んでゆくよう進行した。中心となる講義のほか、作品鑑賞の機会(オプション企画に 「テーマ上映会」を組み込む、美術では愛知県美術館の企画展の団体鑑賞を行う、等) やダンス・ワークショップなど、参加型の講義も行った。この複合文化施設である 愛知芸術文化センターの特性を活かした、具体的で手応えのあるプログラムは、 既存のカルチャー・センター等にない特色となっている。また今年度は講義においても 受講者による合同討議の形式や、アート・マネジメント的な制作の裏話といった内容を 盛り込むなど、過去3回とはやや趣きの異なる方向性も打ち出している。 これは入門講座という内容ながら、前年度以前より継続的に参加する者が少なからずいる ことへの対応という側面もある。

自分が関心を持っていないジャンルへの目を開かれた、敬遠していた現代アートに 親しく接することが出来るようになった等、受講者の反応は好評で、来年以降の継続した 開催を望む声があった。今年度は特に、事業の制作過程や、文化施設の運営等の話題など にも言及し、これは一般の観客の立場ではあまり知ることが出来ない内容であり、 高い関心を呼んだ様子である。受講者の中には「あいち芸術文化フェスタ2002」の ボランティア・スタッフに応募して、一連の事業に制作サイドとして参加、その一端に 触れた者もあり、新たな経験の場を作り出したといえよう。これは、今後の公演等にも、 受講者がボランティア・スタッフという形で参加するという、可能性を示唆するもの ともいえるだろう。
(越後谷卓司)

映 像
全5回の講義を、対象への批評的なアプローチという観点から構成した。 一つの作品に対して、個々人がそれぞれ独自の見方を持ち得ること、さらにそれが創造性 や創作性へと発展してゆく可能性を内在していることを示唆した。具体的にはオリジナル 映像作品第10弾『フーガの技法』(監督:石田尚志、2001年)を上映し、受講者それぞれが これをどう見たか、自分であれば音楽を映像化する際にどう取り組むか、また他の作品等と 組み合わせてどのような上映の企画が可能か、等々の課題を投げ掛け、議論を行った。

また、ビデオアートの対称的な二人のアーティスト、ナム・ジュン・パイクとビル・ヴィオラ を取り上げ、文化情報センターのコレクションから、それぞれ『ガダルカナル・レクイエム』 (1977-79年)と『砂漠』(1994年)の一本づつの作品を選び、対比的に組み合わせて上映し、 プログラムの実例を示すなどした。映像とは何かといった概念的な問題や、映像メディアと 表現の歴史的な展開など、基礎的な事柄に触れたことはもちろんだが、2002年にドイツで 開催された国際展「ドクメンタ6」も話題にし、映像と美術が表現とジャンル区分において 混交する現状についても言及した。
(越後谷卓司)

美 術
第1回目に、アート・マネジメント的な視点から美術館の運営に関する講義 「美術館って何?のために」を行った。これは、作品を鑑賞する観客の立場からは背後に あって見えない、美術館という組織がどのように機能し、展覧会が成り立っているかを 明らかにするもので、受講者に新鮮な驚きを与えた。引き続き、愛知県美術館で開催中の 企画展を、担当する学芸員のレクチャーの後、実際の作品を団体鑑賞する講座を3回行った。 Motoe Kunio
* 本江邦夫
今年度は「日韓国民交流年」に合わせたタイムリーな企画「韓国の色と光」展、 20世紀の重要作家を取り上げた回顧形式の「ミロ展」、現代絵画の最先端で精力的な 活動を続ける作家の個展「中西夏之展」と、それぞれが異なる内容で、学芸員による 作品解説や、展覧会の企画や準備、運営にまつわるエピソードもそれぞれであり、 受講者たちのさらなる関心を呼んだ。また第5回目のゲスト講師として招いた 美術評論家・本江邦夫の講義「芸術作品とただのモノ」は、作品と単なる物体を分けるもの は何かという、美術のみならず芸術全般にも関係深い、本質的な内容で、知的な興味と刺激を 与えるものであった。

(越後谷卓司)

音 楽
第1回の講義で、現代音楽の鑑賞ポイントを押さえた上で、3回までは、映像を通じて作品を 鑑賞した。
第1回は、現代音楽の改革者、ジョン・ケージについて。第2回は20世紀に開発 された新しい楽器とも言えるコンピュータと、最も古い楽器、声とのコラボレーション3作品。 第3回は、演奏者の動作や演劇的な語りなどが加わったシアターピース(劇場的作品)を 2作品。いずれの回も聴き所や背景を上映中に解説した。
Suzuki Daisuke
* 鈴木大介
また第2回では、受講者に感じた ことを文章で表現してもらった。第4回は20世紀の音楽の流れを押さえた年表を使った まとめの後、音楽のマネジメントについて、林健次郎氏(扶桑文化会館音楽担当スタッフ) に講義をお願いした。第5回はアーティストによる講演で、ギタリストの鈴木大介氏を迎えた。 鈴木氏は、自分の活動について話した後、現代音楽の楽譜から作曲者の意図をどのように 読み取り実際に演奏するのか、楽譜を見せながら解説した。その後、解説で取り上げた作品を 含めて演奏が行われ、演奏者の呼吸まで聞き取れるほど間近で演奏が聴けたことは、 受講者にとって得がたい体験となった。
(藤井明子)

舞 踊
前年までは西欧を中心とした20世紀の舞踊の歴史を中心に講義を行ってきたが、 4回目となる平成14年度は、舞踊の創作やマネジメント、ダンスの観賞法など 「舞踊とは何か」ということが全体像として見えるように講義内容を広げた。 特に「ダンスの観賞法」ではビデオによって数本の作品をじっくりと観賞する機会を 設けたほか、舞踊家の岡登志子さんとパフォーマーのフリッツ・シテレさんを迎えて、 直にパフォーマンスに接する中での解説を試みた。 Dance Workshop by Amanda Miller, dancer
* アマンダ・ミラーによる
 「ダンス・ワークショップ」
例えば「歩く」ことから「ダンス」が できていく過程や、「動きと感情」の関わり、「動きと空間」、「動きと音」といった テーマに沿って、実際に岡さんに動いてもらいながら解説を加えた。どのようにダンスが 成立していくのかということを受講生が理解しやすいように、受講者にも質問や意見を 行ってもらいながら、岡さんにも答えてもらうなど、双方のやり取りの中で受講者が 自ら考え体感できるような工夫を行った。
アマンダ・ミラーを講師に迎えての体験型ワークショップでは、 ダンス未経験者にも楽しめる内容で、多くの受講者が身体表現の楽しさを発見していた。
(唐津絵理)



 < 講義一覧 >
2002年
6月5日(水)
映像 1 講義1「映画史概説」
6月12日(水) 映像 2 講義2「映像とは何か」
6月19日(水) 映像 3 講義3+合同会議1「批評的作品鑑賞法」
6月26日(水) 美術 1 講義1「美術館って何?のために」
ゲスト講師:高橋秀治(愛知県美術館主任学芸員)
7月3日(水) オプション 現代音楽家シリーズ第9回
向井山朋子レクチャー&コンサート「コンサートの可能性」
7月10日(水) 舞踊 1 講義「現代舞踊概論〜舞踊とは?」
7月24日(水) 舞踊 2 ダンス観賞&意見交換会「ダンス観賞法1」
デモンストレーション:
岡登志子(ダンサー)、フリッツ・シテレ(パフォーマー)
8月2日(金) 美術 2 「韓国の色と光」展鑑賞   ゲスト講師:牧野研一郎(愛知県美術館副館長)
8月3日(土)-
11日(日)
オプション テーマ上映会「現代韓国映画祭2002」
8月7日(水) 舞踊 3 ダンス・ワークショップ ゲスト講師:アマンダ・ミラー(ダンサー)
9月4日(水) 映像 4 参考作品上映会「ナム・ジュン・パイクvsビル・ヴィオラ」
9月11日(水) 映像 5 合同討議2 「映像の創造〜企画の立案」
9月18日(水) 舞踊 4 講義「ダンス創作とマネージメント」
9月25日(水) 舞踊 5 ビデオ鑑賞&合同討議「ダンス観賞法2」
10月18日(金) 美術 3 「ミロ」展鑑賞 ゲスト講師:村上博哉(愛知県美術館主任学芸員)
10月30日(水)・31日(木)・11月2日(土) オプション 第7回アートフィルム・フェスティバル
 第一期「オリジナル映像作品10年の軌跡」
11月27日(水) 音楽 1 講義&ビデオ鑑賞1 「音楽の改革者 ジョン・ケージ」
12月5日(木)-
15日(日)
オプション 第7回アートフィルム・フェスティバル
  第二期「ストローブ=ユイレ レトロスペクティブ」
12月18日(水) 音楽 2 講義&ビデオ鑑賞2 「コンピュータと声による作品」
12月25日(水) 美術 4 講義2「芸術作品とただのモノ」   ゲスト講師:本江邦夫(美術評論家)
2003年
1月8日(水)
音楽 3 講義&ビデオ鑑賞3「シアターピース」
1月10日(金) 美術 5 「中西夏之」展鑑賞   ゲスト講師:深山孝彰(愛知県美術館主任学芸員)
1月15日(水) 音楽 4 講義「音楽のマネジメント」
ゲスト講師:林健次郎(扶桑文化会館音楽担当スタッフ)
1月22日(水) 音楽 5 トーク&デモンストレーション「クラシック・ギターの可能性」
ゲスト講師:鈴木大介(ギタリスト)


前へ このページのトップへ 次へ