Event Talk Part.11
  イベントーク Part.11 :

  ライブ・ムービー 『MI・TA・RI!』
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2003年1月17日(金) 会場 : 愛知県芸術劇場小ホール
  第1部 : ライブ・ムービー 『MI・TA・RI!』
監督・脚本・撮影・編集・音楽・主演:原將人×マオリ
8mm(シングル8)・ビデオ/三面複合スクリーン/シネマスコープサイズ/
上演時間81分/2002年/著作・製作:RABBIT COMPANY PRODUCTION
イメージ・ペインティング:奈良美智
第1回フランクフルト国際映画祭観客賞受賞作品
筝:八木美知依(20絃筝)、高橋弘子(17絃筝)、角野由佳(筝)、タブラ:吉見征樹
  第2部 : トーク・ショー
出演:原將人(映画監督)、MAORI(アーティスト)、岩井康ョ(画家)
司会:越後谷卓司(愛知県文化情報センター)

「イベントーク」は、愛知芸術文化センターの開館記念事業の一つとしてスタートし、 以来、毎年継続的に開催してきた、愛知県文化情報センターのオリジナル企画である。 イベントとトークを組み合わせたスタイルによるこの事業は、舞踊や音楽などの パフォーミング・アーツのみならず、映像や美術、文学等、幅広い領域を取り上げ、 様々なコラボレーションの実験を繰り広げるなど、異ジャンル間の相互交流や複合化と いった問題に、先駆的に取り組んできた。また、テーマに「身体」ないし「身体性」を設定し、 情報化が進行する現代社会において、ともすれば希薄化し見過されがちな人間の身体感覚を どう捉え直すか、という問題意識を一貫して持ち続けてきたことも特色の一つである。

Part.11として開催される今回は、日本の映画界で独自のスタンスに立ち、常に影響を 与え続けてきた原將人が、パートナーであるMAORIとともに監督したライブ・ムービー 『MI・TA・RI!』(2002年)を取り上げた。この作品は、原が『初国知所之天皇』 (はつくにしらすめらみこと、1973年)以来、ライフ・ワークとして提案し、独自のスタイル で贈る本格的ロード・ムービーの最新作である。8mmフィルムとデジタル・ビデオの三面 マルチ映像に生演奏と歌が加わった、枠にとらわれないその映画の形は、映画の新たな可能性 を切り拓く最も重要な作品として「第1回フランクフルト国際映画祭」に正式招待された。 その上映の場においては、多くの観客を魅了、映画人、批評家からの賛辞を得て、同映画祭の 観客賞を受賞した話題作である。

ライブ演奏によるこの映画は、上映会場ごとに音楽が異なることも大きな特色の一つである。 それは旅の行程を捉えたロード・ムービーであるこの作品が、様々な場所で上映されるたびに 異なる共演者と出会い、上映の場においてまた新たに作品が生成されるという、開かれた 可能性を持っていることでもある。今回は原の語り、MAORIの歌唱に、筝(八木美知依、 高橋弘子、角野由佳)とタブラ(吉見征樹)が加わった愛知オリジナルの編成となった。 多彩な奏法を用いつつ、伝統的な邦楽のイメージを良い意味で裏切る筝と、時に重厚で、 また時にユーモラスな、幅広い音色を紡ぎ出したタブラによる音楽は、『MI・TA・RI!』に これまでにない新たな表情を付け加えたといっても過言ではないだろう。

三面マルチ映像によるライブ上映というこの作品のスタイルは、今回の公演で初めて これに触れる者にとっては、少なからず驚きをもって受け止められたようだ。 しかしそうした観客が戸惑いつつも徐々にその独自の世界に引き込まれ、魅了されていった 様子がうかがえることは、この映像と音楽の、そして音楽家どうしのコラボレートが、 緊張感のある高いテンションでなされていたことの証左といえよう。エンディングで 使用した照明やミラー・ボールの効果は、小ホールという劇場の空間性を考慮した演出で あったが、通常の映画館とは異なる空間において、映像のコラボレーションを行うという 点で有効に作用し、成功を収めたといえよう。アンケートからは、8mmフィルムで映画を 撮ろうとする若者達が、この映画の斬新なスタイルに触れ、大いに勇気づけられた様子だった。

トーク・ショーは、監督の原、MAORIに加え、画家で弘前大学教育学部教授の岩井康ョが トーク・ゲストとして参加し、行われた。岩井は『MI・TA・RI!』のイメージ・ペインティング を担当した画家・奈良美智の個展「奈良美智展 弘前/I DON'T MIND. IF YOU FORGET ME.」 を2002年に青森県弘前市で開催する際、会長を務め、横浜美術館で始まった同展を、 単なる巡回ではなく強く場所性に引き付けた形で開催して、大きな成功に導いている。 岩井は、MAORIと原はこの作品で巫女の役割を果たしているという、彼が住む青森の風土を 背景にした、独自の解釈を提示し会場を沸かせた。ライブ上映という形式による身体の関与 のみならず、原は撮影の現場で起こる様々な出来事を、身体で受け止め、映像を紡ぎ出して いる、という指摘は、本質的には虚像ともいえる映像が、いかに身体性を獲得するかという 問題にきわめて示唆的であった。その他、ライブ映像を成立させる技術的な裏話 (『MI・TA・RI!』では、8mmフィルムを低速度で映写し、スローモーション的効果を 上げているが、こうした操作の出来る映写機は、実は日本製品のみの特性で、海外の公演の際、 同じ効果を出すため、急遽、映写機を日本から送ってもらい対処したことなど)も、 原とMAORIから語られるなど、公演だけでは決して見えない側面にも光が当てられ、 この企画にさらなる厚みをもたらした。
(越後谷卓司)


プロフィール

  原 將人
 (映画監督)
1950年東京生まれ。1968年、高校在学中に『おかしさに彩られた悲しみのバラード』で 衝撃的な登場。1973年自ら製作、作曲、演奏を手掛けた『初国知所之天皇』 (はつくにしらすめらみこと)を完成。1997年、初の35ミリ劇場映画 『20世紀ノスタルジア』で第38回日本映画監督協会新人賞を受賞。 MAORIとの共同で監督した、2002年の最新作『MI・TA・RI!』に至るまで、その活動は 常に日本映画界に多大な影響を与え続けている。 HARA Masato
* 原 將人

  MAORI (アーティスト)
1973年1月1日生まれ。大分県出身。O型。洋画モデル、フリーアナウンサーなどを経て、 原將人に見出される。2001年初監督作品『原発通信創刊号』はイタリア「ぺサロ映画祭」 に正式出品され幅広いファン層を獲得。2002年原將人との共同監督作品『MI・TA・RI!』で 「第1回フランクフルト国際映画祭」に正式招待され、同映画祭において 「最も美しく叙情的でポエスティックな作品」と絶大な支持を得て、観客賞を受賞した。 MAORI
* MAORI

  八木 美知依 (筝)
愛知県常滑市生まれ。倉内里仁師、故沢井忠夫師、沢井一恵師に師事。 NHK邦楽技能者育成会第31期修了。1989年よりウェスリアン大学(U.S.A)に 客員教授として1年間赴任。伝統的な筝曲演奏の一方で、ジョン・ゾーン、ミノ・シネル、 佐藤允彦、金大煥、姜建葦ら様々なミュージシャンと共演。中村明一(尺八)、 磯貝真紀(17絃)との「Kokoo」、Haco(ヴォーカル)との「HOAIHIO」などでも活躍している。 YAGI Michiyo
* 八木 美知依

  吉見 征樹 (タブラ)
1984年タブラを始める。1985年幅広い音楽修行の為、ニューヨークに渡る。 1987年よりインドにてタブラの大御所ウスタッド・アラ・ラカ・カーン氏に師事。 タブラの可能性を追求する為、インドの古典音楽はもとより佐藤允彦、本條秀太郎、 一噌幸弘、宇崎竜童、谷川賢作ほかあらゆるジャンルの音楽家・ダンサー (小林伴子、関原亜子ほか)・アーティスト(大野一雄、谷川俊太郎ほか)などと共演、 精力的なセッションを続けている。 YOSHIMI Masaki
* 吉見 征樹

  岩井 康ョ (美術家、弘前大学教育学部教授)
1952年生まれ。1975年「ミレの会」展出品(東京・ギャラリーデコール、以後1982年まで)。 1976年愛知県立芸術大学卒業、桑原賞。1978年同大学院修了、修了制作買い上げ。 1985年紀伊国屋画廊(東京)以後、ハセガワート(名古屋)など個展多数。『化粧地蔵』、 『楽屋裏』の連作は、「生活地である津軽の風土や慣習を生かし、現代的な感性で色の バランスを基本とした堅牢な画面」(坂崎乙郎)と評されている。 IWAI Yasunori
* 岩井 康ョ

* all Photo :
  SAKAKURA Mamoru
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