刀根康尚
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    現代音楽家シリーズ6 :  刀根康尚講演会
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2001年1月18日(木) アートスペースA
  講師 : 刀根康尚

ジャンルを横断しコンセプトやスタイルに何らか「越境」の思想を持ちながら活動を 行っている音楽家が、直接自分の音楽について語る講演会シリーズ。今回は、 ニューヨーク在住の音楽家で、「特集公演:音楽の実験」にも出演する刀根康尚を迎えた。 刀根は、1960年代から1972年に渡米するまで、その実験的な演奏活動及び評論活動によって、 日本の現代音楽界や現代美術の領域に大きな足跡を残した人物であるが、 渡米後の彼の活動は、現在に至るまで日本ではほとんど紹介されていない。今回は、 「特集公演」での本人による演奏を含め、彼の活動について知る好機となった。

講演は、自作をCDで聞かせ紹介することから始まった。1970年代末から彼が取り組ん できた、漢字と音とを関連付けた4つの作品について、そのコンセプト、使用した音や楽器、 テキストなどについて音を聞かせながら、具体的な説明を行っていった。例えば、 漢字の形状や現在の漢字の元になったイメージをコンピュータによって読み取り、 音に変換する作品、横にした五線譜の上に万葉集にある和歌を万葉仮名で書き、 それを楽譜として演奏する作品など。

講演会より

講演会より
講演会より

1972年以来、日本語文化圏を飛び出し、英語圏で あるニューヨークを拠点に活動を行っている刀根が、これらの作品を通じて行って きたのは、欧米の音楽、ひいては欧米の文化に対抗する新しい表現の追求であった。 人間が思考し、感じ、様々な文化を生み出してゆく前提になっているのは言語であるが、 言い換えればあらゆる文化や表現はその言語の範疇を超えることはできない。刀根は、 ニューヨークで、敢えて漢字、それも古代中国や日本の書物から引用したテキストを 用いることによって、欧米の音楽、文化に揺さぶりをかけ続けてきたのである。

講演は、具体的な作品の紹介に多くの時間が割かれたため、彼のこうした考え方を うかがい知ることができたのは、講演の最後になってしまい、時間切れとなってしまった のは残念であった。しかし、長らく数少ないCDと噂だけでしか得られなかった刀根の 活動について、本人から直接聞くことができる貴重な機会となった。また、音響としては ノイジーな作品が多いが、それらの作品が、日本人である私たちにも共通して理解できる 明快なコンセプトの下で制作されていることが明らかになった。

(藤井明子)

撮影 : 高嶋清俊


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