コンサートは、スクリーン上に光の変化を感知するセンサーを取り付け、そこに16mm
フィルムを投射して自動的に音を出す刀根康尚《モレキュラー・ミュージック》から始まり、
続いて、ピアノの内部奏法を取り入れたウォルフ作曲の《フォー・ピアニスト》では、
ピアニストで作曲家でもある高橋悠治が非常に高い集中力で演奏を行った。高橋は、
自作《ブリッジズ》でも、小杉武久とともに、シンセサイザーや打楽器を使っての大音響に
よる演奏を行った。後半は、楽器を演奏するというより、身体の動きによって音を変化
させるようなパフォーマティヴな作品が続いた。小杉武久の《キャッチ・ウェイヴ '68》は、
高周波数発振機とラジオ受信機を近づけた時電波の干渉現象によって生じるビート音を
使った作品。作曲者の小杉と、若手演奏家の和泉希洋志が、自転車を使ったり、扇風機を
使ったり、見ていても面白く迫力のある演奏だった。
美術作家のヨシダミノルが製作した《シンセサイザー・ジャケット》の演奏では、
クラブ・ミュージックやロックバンド演奏で人気のある音楽家、ヤマタカEYEが登場。
アコーディオンのように右胸の位置に鍵盤が配置されたジャケット型シンセサイザーを装着、
パフォーマンスを行った。最後は、チュードア作曲の《レインフォレストI》で、ドラム缶、
木箱など様々な材質・形状のオブジェにコンタクト・マイクを付けて吊るし、
観客を取り巻くように設置した8個のスピーカーから、オブジェの材質や形状の違いに
よって異なる音を流し、その操作を行った。
どの曲も、楽音を使った通常の音楽や演奏とは異なり、音楽の前提となっている音の
物理的側面(例えば音色やピッチを決める周波数)の操作を見せ、その結果として生じる
音そのものをどのように味わうか考えさせる作品及び演奏であった。このような作品の
演奏が行われる機会はめったにないため、中部圏はもとより、関西や東京からもかなりの
観客が詰め掛け、予想を上回る反響があった。
(藤井明子)
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