小杉武久
小杉武久
   特集公演 :  音楽の実験-アメリカと日本
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2001年1月19日(金) 愛知県芸術劇場小ホール
企画制作協力: HEAR sound art library
演 奏 者: 和泉希洋志、小杉武久、高橋悠治、刀根康尚、ヤマタカEYE
演奏曲目:  刀根康尚《モレキュラー・ミュージック》(1982)、  クリスチャン・ウォルフ《フォー・ピアニスト》(1959)
高橋悠治《ブリッジズ》(1967)、 小杉武久《キャッチ・ウェイヴ '68》(1968)
ヨシダミノル《シンセサイザー・ジャケット》(1974)、  デヴィッド・チュードア《レインフォストI》(1968)
ラ・モンテ・ヤング《コンポジション 1960#7》(1960) (リアリゼーション:藤本由紀夫)

1960年代は、日本において音楽の表現方法そのものが問い直された時代であったが、 そこにはアメリカ実験音楽からの影響は見逃せない。1962年来日したアメリカの作曲家 ジョン・ケージとデヴィッド・チュードアが行った、日常の音そのものを使った演奏は、 「演奏」と「音楽」について根幹から問いかけた。こうした革新的・実験的動向は、 当時の音楽界に大きな衝撃を与え一世を風靡するが、やがて限られた音楽家だけに引き 継がれてゆくことになった。

しかし、こうした試みこそが、音楽と演奏についての新しい 地平を開き、テクノロジーの利用と相互関連しながら、今日の多様な音楽を導き出して きたと言えよう。ひとつのテーマに沿って多様な現代の音楽を紹介する「特集公演」では、 今回、このような実験的精神を受け継いで生まれた、不確定性、イヴェント、 インターメディア、ライヴ・エレクトロニクス、ミニマルと続くアメリカ実験音楽の代表作、 そして従来の音楽の枠組みを超えた日本人音楽家の作品、合計7曲を取り上げた。

開場から開演までの間、観客を迎え入れるロビーと舞台上に、キーボードが数箇所に 置かれ、会場全体で、2つの音の和音による全く変化の無い持続音が鳴らされていた。 これがラ・モンテ・ヤング作曲《コンポジション 1960#7》(リアリゼーション:藤本由紀夫) であった。

《ブリッジズ》 《シンセサイザー・ジャケット》
左: 《ブリッジズ》
右: 《シンセサイザー・ジャケット》


《レインフォスト I 》
《レインフォスト I 》

コンサートは、スクリーン上に光の変化を感知するセンサーを取り付け、そこに16mm フィルムを投射して自動的に音を出す刀根康尚《モレキュラー・ミュージック》から始まり、 続いて、ピアノの内部奏法を取り入れたウォルフ作曲の《フォー・ピアニスト》では、 ピアニストで作曲家でもある高橋悠治が非常に高い集中力で演奏を行った。高橋は、 自作《ブリッジズ》でも、小杉武久とともに、シンセサイザーや打楽器を使っての大音響に よる演奏を行った。後半は、楽器を演奏するというより、身体の動きによって音を変化 させるようなパフォーマティヴな作品が続いた。小杉武久の《キャッチ・ウェイヴ '68》は、 高周波数発振機とラジオ受信機を近づけた時電波の干渉現象によって生じるビート音を 使った作品。作曲者の小杉と、若手演奏家の和泉希洋志が、自転車を使ったり、扇風機を 使ったり、見ていても面白く迫力のある演奏だった。

美術作家のヨシダミノルが製作した《シンセサイザー・ジャケット》の演奏では、 クラブ・ミュージックやロックバンド演奏で人気のある音楽家、ヤマタカEYEが登場。 アコーディオンのように右胸の位置に鍵盤が配置されたジャケット型シンセサイザーを装着、 パフォーマンスを行った。最後は、チュードア作曲の《レインフォレストI》で、ドラム缶、 木箱など様々な材質・形状のオブジェにコンタクト・マイクを付けて吊るし、 観客を取り巻くように設置した8個のスピーカーから、オブジェの材質や形状の違いに よって異なる音を流し、その操作を行った。

どの曲も、楽音を使った通常の音楽や演奏とは異なり、音楽の前提となっている音の 物理的側面(例えば音色やピッチを決める周波数)の操作を見せ、その結果として生じる 音そのものをどのように味わうか考えさせる作品及び演奏であった。このような作品の 演奏が行われる機会はめったにないため、中部圏はもとより、関西や東京からもかなりの 観客が詰め掛け、予想を上回る反響があった。

(藤井明子)

撮影 : 高嶋清俊


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