「20世紀を編集する−アメリカの芸術と日本」というテーマで、1960年代から70年代に
かけてのアメリカと日本の関係に焦点を当てた様々な催しを展開したが、「一柳慧
グラフィック・スコア展」もその一環として開催した。
1950年代欧米では、新しい音楽を求める実験的な動きと連動し、演奏者の自由な創造性に
託すべく、五線譜以外の方法による楽譜「グラフィック・スコア(図形楽譜)」が試み
られるようになる。今日ではグラフィック・スコアは作曲の一手法として定着し、
その演奏も時々行われているが、実際に楽譜を見る機会は極めて少ない。今回、日本を
代表する作曲家のひとり、一柳慧の作品に焦点を当て、彼のグラフィック・スコアを
まとめて紹介する機会を設けた。彼を選んだのは、1950年代後半から60年代初頭にかけて、
ニューヨークでアメリカ人作曲家のジョン・ケージらと実験的な音楽活動を展開し、
いち早くグラフィック・スコアを試みた、グラフィック・スコアの先駆者とも言える
作曲家だからである。
展示したのは、1959年から1997年までの約35年間に創られた9作品である。
グラフィック・スコアでは、最初に演奏するための解説があり、その楽譜固有の記号や
演奏の仕方が記されている。一柳のグラフィック・スコアは、その多くがニューヨーク
滞在中に作曲されており、解説は英語で書かれている。そのため日本語訳を資料として
配布し、楽譜の意味を理解してもらえるようにした。またいくつかの作品は、
その演奏がCD化されていたので、それらを会場で流し、現前化された音としても
楽しめるようにした。
展覧会は、無料ということもあって数多くの観客が訪れた。とりわけ音楽を演奏する
人にとってはグラフィック・スコアをまとめて見る好機で、非常に好評であった。特に
1997年に制作されたエンボスで譜を描いた作品『時の輪郭』や、1961年に作曲され近年色を
加え直した作品『弦楽器のためのスタンザ』は、視覚的にも非常に完成度が高く、
初めて見た人にも感銘を与えたようであった。
(藤井明子) |