『クレマスター』は、注目の若手アーティスト、マシュー・バーニーが、自ら脚本・
制作・監督する話題作で、映像による一種の身体論ともいうべきユニークな作品である。
今回は「コンテンポラリー・ダンス・シリーズ4 パート2」の一環として、全5作の
シリーズより、アメリカ、アイダホ州のフットボール場でミュージカル的な演出を行って
いる『クレマスター1』(1995年)と、ハンガリー、ブダペストのオペラ・ハウスで
ロケされた『クレマスター5』(97年)の、パフォーミング・アーツと関連深い2本を
上映した。
今日、ダンス公演では、舞台美術として映像が用いられたり、振付家がダンス映像作品
を手掛けるなど、ジャンルを横断する現象を見ることが出来る。映像メディアの浸透という
点で見逃せないもう一つの分野は美術である。2001年に開催された歴史ある国際美術展
「ヴェニス・ビエンナーレ」や、第一回を飾った「横浜トリエンナーレ」などでも、
さかんに言及されたのは映像作品の量的な過多であったほどだ。
上映前日に開催された、Study of Live works 発条トの新作公演
『彼/彼女の楽しみ方』は、映像を舞台上に積極的に取り込んだダンス作品である点で、
映像による美術作品といえる『クレマスター』同様、やはり現代を反映しているといえよう。
本企画では、このことを受けて、発条トの振付家・ダンサーで、映像作家でもある白井剛を
ゲストに招き、上映に併せトーク・ショーを開催し、状況への考察も試みた。
愛知初上映となる『クレマスター』は、当地の美術関係者の間でもある程度知られる
存在であったが、今回はダンス公演とリンクする形を採ることにより、ダンス愛好家も
会場を訪れ、さらに非常に観る機会が限定された特異な映像作品である点から、映画
ファンの関心も引くなど、予想を上回るジャンルを越えた相乗効果が得られた。
35mmフィルム、ステレオ・ドルビーSR音響方式による本作は、これまで、既存の
美術館では、主に上映設備の問題で本格的な映画上映に対応できず、やむを得ず近辺の
映画館を借りて上映を行ってきた背景がある。その点で今回の企画は、美術館を有する
施設で上映が実現したという意味で、非常に意義深いものであった。さらに、ダンス公演
との関連性を持たせ、現代芸術の最もヴィヴィッドな状況に言及できたことは、
複合文化施設の機能の発揮という点でも得難い達成を遂げた、といえよう。
(越後谷卓司)
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