森川栄子
森川栄子
  特集公演:「声の現代-コンピュータとの出会いとその可能性」

  コンサート第2夜   アンサンブル・ノマド&森川栄子
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2001年9月14日(金) 愛知県芸術劇場小ホール
  制作協力:  エアリエル   (社)企業メセナ協議会助成認定活動
  出演者:   森川栄子、
アンサンブル・ノマド(佐藤紀雄、木ノ脇道元、菊地秀夫、加藤訓子、 中川賢一、吉野弘志)
  演奏曲:   ニコロ・カスティリォーニ《バルダサルかく語りき》(1980-81)
ジョン・ケージ《居間の音楽》(1940)
ルチアーノ・ベリオ《セクエンツァV》(1965)
マウリツィオ・カーゲル《エクゾティカ》(1970-71)

第2夜では、東京を拠点に現代音楽の演奏活動を行っているアンサンブル 「アンサンブル・ノマド」と、ベルリンで活躍するソプラノ歌手の森川栄子が、 1940年代から80年代までに作曲された声を用いた作品を紹介した。森川が歌った2曲、 カスティリォーニ作曲《バルダサルかく語りき》 とベリオ作曲《セクエンツァV》は、 どちらもソプラノ歌手という声のための作品である。とりわけ《セクエンツァV》は、 出しにくい音も含めて様々な声の表現が要求される20世紀の声の代表作とも言える 作品だが、森川は、両曲とも、演劇性も交えながら表情豊かに、非常に巧みな演奏を 行った。

一方、ノマドによるケージの《居間の音楽》とカーゲルの《エクゾティカ》は、 声のための作品ではなく、様々な楽器の一つとして声が用いられる作品である。 ここでは声は歌われるのではなく、朗読のようであったり、奇声であったりし、声の様々な 表情を聞くことが出来る。

カーゲル《エクゾティカ》を演奏するアンサンブル・ノマド
カーゲル《エクゾティカ》を演奏するアンサンブル・ノマド


ケージ《居間の音楽》
ケージ《居間の音楽》

ケージの《居間の音楽》は、4つの短い楽章から成っているが、 2つ目の楽章で4人の演奏者が英単語を繰り返しながら舞台全体に散らばっていくリズミカル なラップのような声が聞かれた。この曲は通常は打楽器奏者によって演奏される作品である。 今回の演奏者は4人とも打楽器奏者ではなかったが、それゆえに演奏者それぞれの個性が 出て、かえって表情豊かな演奏になった。

最後に演奏された難曲、カーゲル作曲の《エクゾティカ》は、様々な民族楽器とともに 奇声が演奏に加わる。この曲は「どこにもない国の民族音楽」であり、声を含めた多種の 楽器が入り混じり、渾然一体となって、喧噪から静寂までをアイロニカルに表現する作品で あると言えよう。6人演奏者たちは、全員がそれぞれ10種類もの様々な楽器を担当し、 衣裳も様々な国のものを交えて、35分に及ぶ演奏を行った。

今回の「特集公演」第1夜・第2夜とも、こうしたコンサートは全国的にも多数開催されて いるわけではなく、東京や関西、四国地方からも観客や新聞記者、評論家が訪れた。 とりわけ中部地域では数少ないため、開催を待ち望んでいた観客の興味や要望に 十分に応えるものであった。

(藤井明子)
撮影 : 南部辰雄

プロフィール

アンサンブル・ノマド
1997年4月、日本の現代音楽シーンをリードするギタリストで指揮者でもある佐藤紀雄によって結成されたアンサンブル。 若手の才能ある演奏家が集まり、斬新なアイディアで「今」を奏でる。「ノマド(遊牧民)」の名称にふさわしく幅広い レパートリーを自在に取り上げ、様々な国の優れた音楽に柔軟に取り組み、音楽の地平線を広げる試みを続けている。 集中的なリハーサルと優れた表現力は、つねに高い評価を受け、20世紀の室内楽作品を演奏するアンサンブルとして期待される。

森川栄子
ソプラノ歌手。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。同大学院修了。DAAD奨学金を得て1993年よりベルリン芸術大学に留学。 96年第65回日本音楽コンクール第1位及び増沢賞受賞ほかダルムシュタット現代音楽講習やガウデアムス現代音楽コンクールで 受賞。レパートリーは、シェーンベルク、リゲティ、ヘンツェ、ノーノ、ラッヘンマンなど現代曲を中心に、モーツァルト等の 古典まで幅広い。現在ベルリンに居住し、ヨーロッパを中心に活躍。


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