また、「身体」というテーマから進展して、作品がジャンルを越えた展開をみせる
ケースもある。平成8年度制作の大木裕之監督『3+1』(1997年)は、愛知芸術文化
センターのオープンスペースであるフォーラムを舞台に行われたコラボレーション公演
『舟の丘、水の舞台』(1996年9月24日開催)を記録したドキュメンタリーであるが、
公演にも監督の大木が参加するという、ユニークかつ実験的なプロジェクトであった。
平成12年度制作の石田尚志監督『フーガの技法』(2001年)は、バロック音楽の巨人J.S.
バッハの同題曲を映像化する試みであった。完成後に開催したイベントークPart10
「J.S.バッハ『フーガの技法』をめぐって」(2002年1月30日、
於:愛知県芸術劇場小ホール)は、この作品の上映とともに、チェンバロの演奏や詩の
朗読を行い、公演の構成自体がバッハのフーガ(対位法)の技法そのものになるという、
知的な独自性に満ちた展開を見せた。
通算11本目となる平成13年度は、「バンクーバー国際映画祭」や「ロッテルダム国際
映画祭」などへの出品歴を持ち、注目を集めている若手の映像作家・白川幸司を監督として
選出。『意識さえずり』(1997年)や『ヒダリ調教』(1999年)など、強い身体的な
オブセッションに依拠した作品から出発した白川だが、本作品においては、初期から
発展して、家族など人間の関係性を追求するドラマへと展開し、作家としての新たな
境地を見せている。
(越後谷卓司)
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