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同時代の新しいダンス表現を追及している振付家を紹介してきたコンテンポラリー・
ダンス・シリーズの5回目。今回は初めて、本格的な文化情報センタープロデュースによる
ダンス作品創作に取り組んだ。
演出・振付を担当したスー・ヒーリーは、自らのダンスカンパニーの芸術監督を始め、
オーストラリアのダンス・シーンに広く活躍する振付家である。愛知芸術文化センターでは
1997年より「フォーラム・イベント」に参加し、地元のアーティストとの交流を深めてきた。
今回は、ダンサーのショーナ・エルスキンと愛知県に約一ヶ月滞在し、日本全国から集まった
新鋭ダンサーと作品を創作した。芸術文化センターとはこれで4回目のコラボレーションに
なるが、この公演は、日本でのスー・ヒーリーの初めての本格的なダンス公演でもあった。
今回はオーディション選考を経た11名の日本のダンサーのほか、作曲:水野みか子、
チェロ:太田一也、フルート:丹下さと子、映像:一尾直樹といった地元の作曲家や演奏家、
映像作家、衣裳デザイナーなどとも濃密なコラボレーションを行った。
またこの公演の創作過程では、東郷町と豊橋市に出かけていき、創作過程を発表する
パフォーマンスとそれぞれの市町に住む一般の方々を対象にしたダンスを体験する
ワークショップを開催した。
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この企画では「ダンス・イン・プログレス(ダンス進行中)」と題しているように、
公演本番だけではなく、<ダンスの創作が進行していく過程>を含めて、公演までの1ヶ月に
亘る連日の練習や、豊橋市、本郷町で行った住民参加型の公開リハーサル・トークも同時に
楽しんでもらうことを意図して、様々な角度から作品の創作やダンスに関わってもらう
機会を設けた。
まず最初に出掛けたのは東郷町での「おでかけダンス」。昼の「ワークショップ」
では実際にダンスを体験したワークショップへの参加者が約30名、それを見ている観客が
約40名と、多くの町民が集まった。ワークショップ終了後の参加者の感想として、
「大げさな動きでなければダンスでないと思っていたけど、自然な動きで十分にダンスに
なるし、そんな自然な動きを行うことが、とても心地よかった」などという、参加者ならでは
のコメントが寄せられた。
また、夜の「パフォーマンス&トーク」でも、東郷町始まって以来の不思議なダンスを
観るために、昼のワークショップ参加者に加えて、小さな子どもからお年寄りまで、
沢山の老若男女が町民会館を訪れた。
まず劇場のホワイエからダンスが開始。生演奏で行われた丹下さと子のフルートの
調べにのって、踊りながらダンサーたちが舞台へ移動、舞台袖へと入っていくと、
スーのビデオ作品『ニッチェ』の上映が始まった。上映終了後、パフォーマンスが開始。
そこではひとつの動きのフレーズから、2人、3人用のアンサンブルにしていく過程や、
ダンサーそれぞれが出した動きを、振付家であるスーが、どのように組み合わせて別の
動きを創っていったか、ということなどを、スー自身が創作の段階を追って説明して
いきながら、それらをダンサーが実演して見せた。
豊橋市の「おでかけダンス」でも、ワークショップに30名以上、「パフォーマンス
&トーク」には50名以上の観客が訪れた。小ホールでの本公演の4日前の公演ということ
もあって、12月11日行われた公演とほぼ同様の内容でパフォーマンスを行った。
2つの市町とも、ワークショップやパフォーマンス、トークと、初めて出会う海外の
ダンサーや音楽家たちを目の前に、ダンスを体験して・観て・話して・聞いて、芸術を
身近に体験することのできた貴重な機会になったようだ。
そして約1ヶ月に亘るリハーサルを経た12月11日の本公演当日。
18時30分に開場したと同時に、小ホールのホワイエでは今回のために水野みか子が作曲
したフルートの曲を丹下さと子が演奏し観客を出迎えた。開演5分前にホワイエから
小ホールへ観客を誘導すると、小ホールの舞台上ではチェロの太田一也による演奏が
始まっていた。それに『ニッチェ』のオリジナルビデオの上映、そして本公演と続く。
本公演の作品は、「ダンス・イン・プログレス」の副題のとおり、スーの出した動きの
フレーズを基に、それぞれのダンサーたちがアレンジしたり、さらに彼女たちによって
創作された数々の動きが積み上げられて構成されている。濃密なワークショップを経た
からこそ生れた作品であることが十分に伝わってくる内容となった。また練習中に
映像作家の一尾直樹が撮影したビデオの映像が投影されるなど、全体としても映像と
音楽と舞台が交錯する神秘的な空間が創出された。
公演終了後には「アフター・トーク」を行った。スーとショーナに作品について
語ってもらうことで、作品を観るだけでは「わかりにくい」と思われがちな現代の芸術に
対して、理解を深める良い機会となった。
また、今年度中には、これら約1ヶ月に亘る製作過程のすべてを撮影した映像作家の
一尾直樹により、ドキュメンタリー映像作品が制作されて「ダンス・イン・プログレス
2002」はすべての過程が終息する。
(唐津絵理)
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* 撮影 : 南部辰雄 |
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プロフィール |
スー・ヒーリー (振付・演出家) |
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過去20年間、オーストラリアのコンテンポラリー・ダンスの最前線で活躍。
1999/2000年にはオーストラリア・カウンシルより、コレオグラフィー・フェローシップ
を与えられ、メルボルン大学の振付の修士学位を授与される。現在はVis-a-Visダンス・
キャンベラ、スー・ヒーリー・カンパニーの芸術監督。彼女の最新作は映像作品"Niche"
(2002年シドニーで行われたダンス・コンペティション最終作品)と同年シドニーで
発表されたソロ作品"Niche #1"。
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ショーナ・エルスキン (ダンサー) |
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メルボルンを拠点に、舞踊家として活躍。スー・ヒーリー・カンパニー等、多くのオーストラリア
を代表する振付家の作品に出演。近年バレエラムでは、ドイツ、モンゴル、中国へ、ヒーリー
と共にスコットランドのツアーに参加。また、後進の指導にあたると共に、心理学の博士課程
に在学中。ヒーリーのダンス・フィルム"Niche"や、"Niche #1"ではソロを踊った。
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水野みか子 (作曲) |
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東京大学文学部美学芸術学科、愛知県立芸術大学音楽学部・同研究科を各々卒業・修了。
名古屋市立大学芸術工学研究科助教授。作曲を兼田敏、岡坂慶紀、マルコ・ストロッパ他の
各氏に師事。神奈川創作合唱曲コンクール、日本交響楽振興財団作曲賞、日仏現代音楽
コンクールなどにて入賞・入選。
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太田一也 (チェロ) |
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桐朋学園大学音楽学部弦楽器科卒業。チェロを、モーリス=ジャンドロン、勝田聡一、
堀江泰、阿保健、内田勝彦、室内楽を、原田幸一郎、安芸昌子、三善晃、末吉保雄、
音楽理論を、飯沼信義、八村義夫、松本日之春の諸氏に師事。第54回日本音楽コンクール入選、
ヨーヨー=マの代理としてヨンオク=キムと共演。東京交響楽団首席チェリストを経て、
現在名古屋フィルハーモニー交響楽団、CHROME(弦楽三重楽団)、H.O.T.(弦楽四重奏団)
所属。
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丹下さと子 (フルート) |
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神奈川県立弥栄高等学校音楽コース卒業。愛知県立芸術大学大学院修了。
第7回ながの―アスペン音楽祭にて音楽スカラシップ賞受賞。これまでにフルートを
村田四郎、酒井みさを、N・エイシンの諸氏に、室内楽を菅原眸、中川良平、村田四郎の
諸氏に師事。現在、桜丘高等学校音楽科非常勤講師等。愛知シンフォニエッタ、
アンサンブルヴァリオメンバー。
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一尾直樹 (映像作家) |
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製作・脚本・監督を兼ねた映画「溺れる人」を2000年に名古屋で撮影、01年にバンクーバー、
プサンなどの国際映画祭に出品。今夏には東京、名古屋、大阪などの都市で劇場公開を実現。
「創作ラジオドラマ脚本募集」に3年連続で入賞し、NHK名古屋局のラジオドラマ脚本などを
手がける。また、舞台の作・演出では「アクターズ・フェスティバルNAGOYA'96」で
グランプリ受賞。99年の火田詮子ひとり芝居「マダムX」も高い評価を得た。
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