2002年7月3日(水)午後7時〜8時30分 愛知県芸術劇場 大リハーサル室
出演者: 向井山朋子
後援: ガウデアムス財団
演奏曲: |
シメオン・テン・ホルト「悪魔のダンス #4」
フレデリック・ジェフスキー「ピアノ曲第4番」
野村誠「たまごをもって家出する」 |
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ジャンルを横断しコンセプトやスタイルに何らか「越境」の思想を持ちながら活動を
行っている音楽家を取り上げ、彼らの語る言葉を通して、現代音楽の多様な様相を紹介する
「現代音楽家シリーズ」。今回はオランダを拠点に活躍するピアニスト、向井山朋子を迎え、
自分の活動について、ピアノ演奏とビデオ上映を交えながら語ってもらった。
梅雨の晴れ間にも恵まれ、予想以上の観客が訪れた。観客層は、男女を問わず、学生
から年配の方まで幅広かった。普段からクラシックなどの"コンサート"に敷居を感じている
人々や、今を生きる音楽家たちの活動に興味を持っている若者の参加も多かったように
見受けられた。
会場は、中央にピアノをセッティングし、それを3方から取り囲むように客席を設けた。
ピアノの後ろにスクリーンを設け、ビデオ上映に使用した。客席と舞台の間に段差はなく、
向井山はピアノの横に立って語りかけるように話したが、こうした舞台セッティングは好評
であった。
向井山は自分の音楽暦について学生の頃の活動から講義を始めた。
優等生だった高校までとはうって変わって、スキンヘッドという出立ちで自分の信じる
演奏活動を模索し続けた大学時代、そこで個性を開花させたという話題は観客の心を捉え、
一気に場の雰囲気を和ませた。
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オランダを拠点にヨーロッパ、アメリカ、日本などで
国際的に活躍する彼女の活動を紹介したビデオ上映からは、舞台・映像や美術の
アーティストとのコラボレーションという、異なる分野の芸術が互いに影響し合い、
効果を高めていることを、観客が直に感じとっているようだった。
講演の途中で、3曲が演奏された。力強くダイナミックなピアノ演奏は観客を圧倒し、
舞台と観客席との境界線がなかったのも手伝って、会場全体が演奏に惹き込まれているよう
だった。向井山は、現代音楽の魅力として、作曲家の意図する演奏と、演奏者の解釈に違いが
生じた場合、同時代を生きる作曲家と演奏家が直接話しあうことができ、従来作曲家が
意図していなかった、新しい作品の魅力が、演奏家によって付け加えられるという点を挙げ、
実際に、オランダ人作曲家シミオン・テン・ホルト「悪魔のダンス #4」の演奏を交えて、
解説してくれた。また、最後に披露した野村誠「卵を持って家出する」は、自らの声とCDに
録音された愛娘の声、老女の声を交えた斬新な演奏だった。
休憩時間には向井山自ら観客と交流したいという申し出があり、行列をなす程、周りに
人の輪ができた。気負わずに講演者と交流する機会が持てたことは大変好評で、
活発に質問をしたり、自分の考えを向井山に語って意見を伺う観客も見受けられた。
固定概念にとらわれない彼女の演奏活動、ひいてはコンサートの可能性を、模索し続ける
彼女の姿が浮き彫りにされたパフォーマンスであった。
(藤井明子)
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プロフィール |
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向井山 朋子 (ピアニスト)
武蔵野音楽大学院を修了後、ロータリー奨学金を得てアメリカ・インディアナ大学、
その後オランダ政府給費留学生としてアムステルダム・スエーリンク音楽院で研鑚を積む。
1991年国際ガウデアムス演奏家コンクールで優勝後、ヨーロッパをはじめ世界各国で
コンサート活動を行う。声や体の動きを使ったユニークなピアノへのアプローチは、
作曲家達を大いに刺激し、毎年彼女のために新しい作品が創り出されている。
アンサンブル・モデルン、アンサンブル・アンテルコンタンポラン、
ロンドン・シンフォニエッタなどにソリストとして招かれる一方、
ノイズアーティストのMERZBOW、舞踊家の伊藤キム、デザイナーのニールス・クレヴァース、
建築家のデジタルPBXをはじめ演出家、写真家、映画作家たちとのコラボレーションによって、
常に音楽の新しい可能性を開拓している。
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