First Gale of Classical Music!
  音楽特集公演: 新旋風クラシック!
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2003年2月11日(火)午後2時〜5時 愛知県芸術劇場コンサートホール
出演者:  鈴木理恵子(ヴァイオリン)、鈴木大介(ギター)、古部賢一(オーボエ)、 中川俊郎(ピアノ)、西陽子(筝)
企画監修: 小沼純一
「特集公演」は、愛知県文化情報センターがオリジナルに企画するコンサートのを中心に、 1つのテーマに沿って、多様な現在の音楽を紹介する企画である。音楽ジャンルのボーダレス 化が著しく進む今日、クラシックのジャンルで活躍する音楽家の中にも、クラシカルな作品を きっちりと弾き込む一方で、多様な共演者と組み、オリジナルにプログラムを構成し、 テーマを決めてCDを制作するなど、真摯に、そして楽しく、それまでになかった音楽を 生み出そうとする演奏家たちが増えている。
左: 鈴木理恵子   右: 鈴木大介
文化情報センターでは、これまでにも ボーダーレスに活躍する音楽家を紹介してきたが、こうした現代の状況を反映し、 今回は、クラシックのジャンルで活動する演奏家たちによる、クラシックからはみ出した 作品や演奏による特集コンサートを開催した。

コンサートは3部構成で行った。第1部は南米の作曲家ピアソラのタンゴと、 同じく南米の作曲家ジョビンのボサノヴァを、クラシックの演奏法によって表現した。 演奏家としてはギターの鈴木大介が中心となった。1曲目のピアソラは甘く美しいメロディ と切れのよいリズムで構成されるタンゴの曲を、ギターの鈴木に、ヴァイオリンの 鈴木理恵子が加わり、詩情的・敏捷に表現した。続いての、ジョビンの2曲は、豊かな響きと 色彩感にいろどられた鈴木大介のソロが十分に堪能できる演奏だった。

1. アストール・ピアソラ: 「タンゴの歴史」より「カフェ1930年」「ナイトクラブ1960年」
2. アストール・ピアソラ: 「リベルタンゴ」
3. セルソ・マシャド: 「ショローソ」
4. エルネスト・ナザレー: 「オデオン」
5. アントニオ・カルロス・ジョビン: 「もしもみんながあなたのようだったら」
6. アントニオ・カルロス・ジョビン: 「イパネマの娘」

第2部では鈴木大介とオーボエの古部賢一のデュオのために日本人作曲家によって 書かれた3曲と、アメリカ人作曲家ビーザーの作品が演奏された。ブラジル音楽を ベースにしたグループ「ショーロクラブ」でベーシストとして活躍する沢田穣治、 ジュリアード音楽院で学んだ現代音楽の作曲家:猿谷紀郎、日米で活躍するジャズ・ ピアニストの藤井郷子と、3人ともそれぞれ異なるジャンルで活躍する音楽家であったため、 その作品も様々であった。
左: 鈴木大介   右: 古部賢一
しかし、いずれも演奏者の2人を良く知る音楽家が創った作品 であり、最後のビーザーの作品を含め、軽やかと力強さ、伸びやかさと緊張感を兼ね備えた 2人の持ち味が、発揮された演奏だった。

1. 沢田穣治: 「NANA」
2. 猿谷紀郎: 「音の風韻」
3. 藤井郷子: 「Daydream」
4. ロバート・ビーザー: 「CINDY」

第3部はヴァイオリンの鈴木理恵子を中心に、ピアノの中川俊郎、筝の西陽子が加わった。 1曲目は、絃の間に物を挟んでわざと残響をなくした"プリペアド"筝のソロ。曲の最後、 撥として使ったスーパーボールを舞台後方に飛ばすパフォーマンスが驚きと笑いを誘った。 続いての、ヴァイオリンとピアノのデュオ、筝を交えたトリオでは、東西の楽器が一体となった 美しい旋律がホールに響き渡り、ほかでは聴けないアンサンブルが披露された。
第3部の最後には、鈴木大介、古部賢一も加わり、5人によってミュージカル 「サウンド・オブ・ミュージック」から馴染み深い旋律の曲「私のお気に入り」が 演奏された。
左: 西 陽子   中央: 鈴木理恵子
右: 中川俊郎
前日のリハーサルで全員によってアレンジされた曲は、即興演奏も加わり、 今回のコンサートの最後を締めくくるにふさわしい演目であった。

1. 西陽子: 「アフリカン・エアー」
2. 中川俊郎: 「モンゴルの4つの旋律」
3. 加古隆: 「アダイ・アダイ〜ブルネイの古謡による」
4. グリゴラス・ディニーク: 「ひばり」
5. リチャード・ロジャーズ: 「私のお気に入り」
(アンコール) フランツ・シューベルト: 「アヴェ・マリア」
なお、各部の休憩の前に、企画監修の小沼純一の司会で、演奏者自身による簡単な曲の解説 トークを行った。内容はおおむね観客にも好評であったが、席によってはスピーカーから の音が聞き取りにくかったようである。
全体としては、休憩やトーク、アンコール曲も入れて、ちょうど3時間という長い コンサートであったが、格式張らず自由な雰囲気で、新しい出会いや発見に富んだ演奏会 となった。今回、新しい表現にチャレンジしながらも「音(を)楽(しむ)」という音楽の 原点を見つめる音楽家を選ぼうと努めたが、5人の表現はまさに企画意図に答えるもの であった。

観客層は、男女を問わず、小学生から年配の方まで幅広かった。 これまでの文化情報センターでの催しに比べると、比率としては年配の方が多かったようだが、 アンケートから推測するに、クラシック・ファンのなかで、古典的なプログラムに飽き足らない 観客や、筝など和楽器とのコラボレーションを期待した人が集まった。 クラシック・ファンの間にも観客層が広がったと受け止めたい。
また、この公演では、未就学児を対象とした託児サービスを実施。 これまで来たいけれど来られなかった新しい観客層を掘り起こし、県民のニーズに 答えるサービスとして、今後もできるだけ継続してゆきたい。
(藤井明子)


プロフィール
  鈴木 理恵子 (ヴァイオリン)
桐朋学園大学演奏科卒業。ヴァイオリンを篠崎功子、室内楽を原田幸一郎、岩崎淑、 三善晃の各氏に師事。米国インディアナ大学でJ.ギンゴールド氏に師事。 87年、新日本フィルハーモニー交響楽団の副コンサート・ミストレス就任。 97年に新日本フィルを退団後は、西陽子、中川俊郎との「トリオ・デュ・モンド」 (99〜2001)、「しらかわシンフォニア」(2000〜)等で活躍。一方で邦楽器など 他分野の芸術家とのコラボレーションを通じて、ヴァイオリンの新境地を拓いている。

  鈴木 大介 (ギター)
1970年生まれ。8歳からギターを市村員章、福田進一、尾尻雅弘、エリオット・フィスク、 ホアキン・クレルチの各氏に、また作曲を川上哲夫、中島良史の両氏に師事。 93年早稲田大学卒業。94年文化庁派遣在外研修員としてザルツブルク・モーツァルテウム 音楽院に留学。その柔らかな響きと見事な色彩感は、武満徹に「今までに聴いたことが ないようなギタリスト」と評された。思索的なインプロヴィゼーションやリリカルな 現代音楽へのアプローチを重ねている。2000年第10回出光音楽賞受賞。

  古部 賢一 (オーボエ)
1968年生まれ。92年東京芸術大学卒業。在学中(91年)に新日本ハーモニー交響楽団首席 オーボエ奏者に就任、現在に至る。オーボエを中山和彦、北島章、小畑善昭、小島葉子、 ランダル・ヴォルフガング、ギュンター・パッシンの各氏に、また室内楽を村井祐児、 中川良平の各氏に師事。小沢征爾指揮・新日本フィル定期公演でのソロや、 サイトウ・キネン・オーケストラ等で活躍。柔らかく甘い音色と響き、バロックから 現代音楽まで対応する柔軟性と優れた音楽性で高い評価を得ている。 近年はジャズの塩谷哲や渡辺香津美との共演なども多い。2000年第10回出光音楽賞受賞。

  中川 俊郎 (ピアノ)
1958年生まれ。桐朋学園大学音楽学部作曲科卒業。同研修科修了。作曲を三善晃、 ピアノを末光勝世、森安耀子の各氏に師事。82年、武満徹企画構成「MUSIC TODAY '82」 10周年記念国際作曲コンクール第一位(自作自演)。88年度村松賞受賞。同年グループ 「アール・レスピラン」の一員として中島健蔵賞を受賞。鈴木理恵子、西陽子との 「トリオ・デュ・モンド」(1999〜2001)の活動は、それ以後のグローバルな視点を培い、 ますます個性的な活動を続けている。CM音楽でも多数の賞を受賞。

  西 陽子 (筝)
幼少の頃より生田流筝曲を学び、沢井忠夫、沢井一恵の両氏に師事。東京芸術大学 音楽学部卒業。自由な発想と感性で筝の可能性にアプローチする。国立劇場における 復元楽器の演奏、内外のアーティストとの即興演奏のほか、鈴木理恵子、中川俊郎との 「トリオ・デュ・モンド」(1999〜2001)、伝統楽器による「糸」 (高橋悠冶プロデュース)、「モノフォニーコンソート」(音楽監督:藤枝守)、 「アンサンブル・オリジン」(音楽監督:一柳慧)等のメンバーとして活躍。
* 撮影 : 南部辰雄

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