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韓国映画は、イ・チャンホやペ・チャンホらのニュー・ウェーブが活躍した1980年代から、
日本でも映画ファン層を中心にして確実な支持を獲得してきた。近年では、ホ・ジノ
『8月のクリスマス』(1998)のように、小津安二郎ばりの抑制された美しさを提示したり、
パク・チャヌク『JSA』(2000)といったハリウッドばりの、スケールの大きな映画が製作
されるなど、新しい状況が生み出されている。今日、韓国映画は娯楽性と芸術性を兼ね
備えた一つのエンターテイメントとして、広く一般に定着した感さえあるほどだ。
しかしこのように紹介の機会を得ているのは、厳密には劇映画に関してであり、
ナム・ジュン・パイクという偉大な先駆者を輩出したビデオ・アートの他、実験映画や
ドキュメンタリーといった分野については、鑑賞の機会は極めて限られた形でしかない。
この映画祭では、これら三つのジャンルの他、映画的な実験性を志向するキム・ギヨンの
劇映画作品なども交えてプログラムを構成し、現代韓国における映像表現の、
興味深い一断面を切り取り、紹介した。
また、愛知県美術館で同時期に開催されていた
企画展「韓国の色と光」と連動し、愛知芸術文化センターの複合文化施設としての機能の
発揮にも貢献した。
上映作品は、多くが愛知県初公開であり、とりわけ「韓国ビデオ・アート
〈1996-2002年〉」と「韓国実験映画〈1990年代以降〉」で上映された作品は、
そのほとんどが日本初公開で、熱心な映画ファン層を中心に多くの観客が集まり熱心に
鑑賞する様は、会場に熱気となって広がっていた。
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キム・ヨンテ 『ウエット・ドリーム』 (1992年)
パク・へソン 『ゴルコンダ』 (2000年)
ユ・ジスク 『10年間の自画像』 (2000年)
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ドキュメンタリーの概念を打ち破る
斬新さをもつメリッサ・リー『愛についての実話』(2001)や、女の情念を
恐怖映画的演出で描写し、比類のない独自の世界を示したキム・ギヨンの
『下女』(1960)、高い技術力でマグリットの幻想的絵画世界を映像として再構築した
パク・ヘソン『ゴルコンダ』(2000、「韓国ビデオ・アート」で上映)、
死と生の世界を独自に融合させたキム・ユンテ『ウエット・ドリーム』(1992)、
アニメーションの導入など大胆な作品の構成が目を引くイム・チャンジェ
『ラクリマル』(1998、以上2作品とも「韓国実験映画」で上映)などが、
観客の関心を呼んだ。また11日には同時開催として、オリジナル映像作品第11弾・白川幸司
『眠る右手を』(2002)のプレミエ上映も行った。約3時間半という上映時間の
大作ながら、集まった観客はほぼ全員これを最後まで鑑賞し、「映画祭」上映作品と
同様に観客からの好反応と高い評価を得た。
「韓国映画祭2002」では「韓国実験映画」プログラムで、キム・ユンテ、
イム・チャンジェの二監督が、『眠る右手を』プレミエでは白川幸司監督が、
それぞれ来館した。上映終了後には、質疑応答の時間を設け、作品を巡って観客との
積極的な意見の交換がされた。特に「韓国実験映画」では、インディペンデント映画
(独立映画)は国の宝であるとして、製作費援助などの手段により、韓国が国を
上げてこれを積極的に支援している様子も窺い知ることが出来、実に興味深かった
といえよう。
(越後谷卓司)
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プロフィール |
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キム ・ ユンテ (「現代韓国映画祭2002」ゲスト) |
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1962年、キョンギド(京幾道)ウンチョン(運川)生れ。83年ソウル大学卒業。
87年ソウル・インスティテュート・オブ・アート、オーディオ・ヴィジュアル・アート
科卒業。92年ゲーテ・インスティテュート主催の実験映画ワークショップに参加。
クリストフ・ヤネツコのもとで最初の映画『ウェット・ドリーム』を制作。
本作や『ダウジング』(96年)、『Video Ritual』(97年)などが
多くの映画祭に出品され、またしばしば映画祭のために韓国映画のプログラムを
組織している。
本企画「現代韓国映画祭2002」では、
「韓国実験映画【1990年以降】」のプログラムを選出、イム・チャンジェ監督
とともに、上映に合わせ来日した。
近年では、「ソウル・ネット&フィルム・フェスティバル」のプログラミング・
アドヴァイザーを務めている。
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上映プログラム |
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(1) 韓国実験映画【1990年以降】〈プログラム選出:キム・ユンテ(金潤泰)〉10本
キム・ユンテ『ウェット・ドリーム』(1992年、15分、16mm)
イム・チャンジェ『トランスフィギャード・ナイト』(2000年、16分、16mm) ほか
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(2) 韓国ビデオ・アート【1996-2002】〈プログラム選出:イ・ウォンコン(李元坤)〉27本
パク・ヘソン『ゴルコンダ』(2000年、2分40秒、Video)
リ・ウンハ『一日中TVを観た』(1999-2000年、5分35秒、Video)
キム・チャンギョム『手紙』(2000年、3分28秒、Video)
ユ・ジスク『10年間の自画像』(2000年、1分12秒、Video) ほか
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(3) ドキュメンタリーの新潮流 4本
メリッサ・リー『夢の中で』(1999年、26分、Video)、『愛についての実話』(2001年、27分、Video)
* 『山形国際ドキュメンタリー映画祭2001』
アジア千波万波部門小川伸介賞受賞
ファン・ユン『別れ』(2001年、84分、Video)
* 『山形国際ドキュメンタリー映画祭2001』
アジア千波万波部門奨励賞受賞
チェ・ジェウン(崔在銀)『on the way』(2000年、72分、35mm)
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(4) "韓国のブニュエル" キム・ギヨン(金綺泳)作品集 2本
『下女』(1960年、108分、Video版〈オリジナル35mm〉)
『死んでもいい経験』(1988-95年、95分、35mm)
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(5) ナム・ジュン・パイク(白南準)作品集
* 愛知県文化情報センター所蔵作品より 8本
『グローバル・グループ』(共作:ジョン・J・ゴットフライ、1973年、28分30秒、Video)
『グッド・モーニング・ミスター・オーウェル』(1984年、30分、Video) ほか
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計51本 |
※ 同時開催 オリジナル映像作品『眠る右手を』プレミエ上映(2002年、208分、Video) |