|
愛知芸術文化センターでは1992年の開館以来、その一部門である愛知県文化情報センター
の企画事業の一環として、一年に一本のペースで、実験的な映像作品の制作を続けてきた。
この「愛知芸術文化センター・オリジナル映像作品」は、その作品のいずれもが、
国内外の映画祭や企画上映に招待され、高い評価を得てきたが、映画・映像作品として
のみならず、作品中で取り上げてきた舞踊や演劇、音楽等、他の表現分野からの関心も
呼んでいる。公立文化施設における映像作品の制作は、川崎市市民ミュージアムや
高知県立美術館なども行っているが、コンスタントに継続しているという点で、
これは国内で唯一といっていい稀有な事例でもあり、文化行政やアート・マネジメントと
いった観点などからも、注目を集めるに到っている。
この企画は、2002年10月30日に愛知芸術文化センターが開館10周年を迎えるに当たり、
これまでに制作された10作品を上映し、10年の歩みを振り返ることを意図した。
「オリジナル映像作品」シリーズでは、20世紀末に芸術のみならず哲学、思想の領域に
おいても注目されつつあった「身体」というタームを、共通するテーマとして設定している。
それによって、制作された10作品には、20世紀末から21世紀初の時代を反映した現代性と
ともに、1990年代から現在に至る、映画、映像表現の様々な動向の一断面が、
刻印されているともいえ、この間における芸術・文化状況の反映を見ることも可能だ
といえよう。
「オリジナル映像作品」では、例えば『トワイライツ』(1994年、天野天街監督)
や『ボディドロップアスファルト』(2000年、和田淳子監督)のように、海外映画祭で
受賞する作品も現れているが、これは90年代以降、日本映画が積極的に国際映画祭等で
紹介されるようになっていった状況と、軌を一にしている。その意味でこの上映会は、
90年代の映画や、それを取り巻く環境を検証する、という側面もあった。
|
石田尚志 『フーガの技法』(2001年)
天野天街『トワイライツ』(1994年)
スチール:羽鳥直志
勅使川原三郎『T-CITY』(1993年)
Photo:Martin Richardson
|
|
上映作品は、いずれも過去に上映されたものであるが、それにもかかわらず
コンスタントに観客が訪れ、特に『トワイライツ』の回では100名を越えたことは、
特筆できよう。また、この上映の機会に始めてシリーズの作品を観た者も少なくなく、
これらの作品群が繰り返し上映され、その回数を重ねてゆくことの意義も感じさせた。
毎年一本づつ制作される作品がストックされてゆくことで、独自の映像ライブラリーが
構築され、それが県民に共有の知的財産となること。
「オリジナル映像作品」のシリーズは、確実にその役割を担う可能性を有している。
そしてこれは、映像という比較的新しい分野において可能なことであり、そのためには
美術と公演の形式に跨ったこのメディアに対応するために文化情報センターという
新しい部門が必要であったことを、改めて実感させた。
(越後谷卓司)
|
|
|
プログラム |
|
|
10月30日(水)
1. |
勅使川原三郎『T-CITY』(1993年、35mm、28分) |
2. |
天野天街『トワイライツ』(1994年、16mm、33分) |
3. |
ダニエル・シュミット『KAZUO OHNO』(1995年、35mm、15分) |
4. |
キドラット・タヒミック『フィリピンふんどし 日本の夏』(1996年、16mm、39分) |
5. |
大木裕之『3+1』(1997年、16mm、82分) |
|
|
|
10月31日(木)
6. |
前田真二郎『王様の子供』(1998年、Video、40分) |
7. |
園子温『うつしみ』(1999年、16mm、116分) |
8. |
和田淳子『ボディドロップアスファルト』(2000年、Video、96分) |
9. |
石田尚志『フーガの技法』(2001年、16mm、19分) |
|
|
|
11月2日(土)
10. |
講演「愛知芸術文化センター・オリジナル映像作品10年の軌跡」 講師:越後谷卓司(愛知県文化情報センター学芸員) |
|
白川幸司『眠る右手を』(2002年、Video、208分)
|
|