レクチャー&コンサート

   音と絵の対話
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1993年5月8日(土) 19:00  愛知県芸術劇場小ホール
出演者: 粟津則雄(文芸評論家、フランス文学者)、 加古隆(作曲家、ピアニスト)
愛知県美術館による「パウル・クレーの芸術」展にちなんで実施した、 レクチャー&コンサート「音と絵の対話」は、テーマそのものが芸術における複合的な 視座を問うものであった。
フランス文学者・粟津則雄氏のレクチャーでは、 「造形的多声音楽」と呼ばれるクレー絵画において、視覚と聴覚がいかに対話して いるかが説かれ、さらに多様な現代芸術をいかに観賞するかについて、やはり眼と耳の 豊かなる対話のあり方が強調された。その的確な語り口と存在感は、粟津氏をまさに 言葉による表現者として印象づけるものであった。

一方、色彩感覚豊かな演奏で知られる加古隆氏の演奏は、クラシックの伝統と現代音楽や ジャズの感性が一体となった、極めて独創的な表現であった。クレーの画集を前に、 まるでそれをデッサンするかのように創作されたという組曲「いにしえの響き」は、 加古氏のクレー絵画への賛美と解釈の世界である。

展覧会を堪能し、さらにこのステージを楽しむ人々に向ける。 絵と音と、そして言葉か織りなす、その時、表現への様々な視座が問いかけられる。 ところで、その企画意図を残響時間のほとんどない小ホールにおいて、しかも視覚的効果を 駆使したコンサートとして実現できたのは、山我勉氏(照明)、菊池和明氏(調律)、 小野隆浩氏(音響)という素晴らしい技術者と、そのコンビネーションに負うところが 大きかったことも付記せねばなるまい。

ひとつのステージがいかにハードとソフトの対話によって実を結んでいくもので あるか…本番の生きた言葉と響きは、あらためてそのことを実感をもって教えてくれた のだった。

(高橋綾子)


Photo:服部繁彦

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