映画監督として著名な吉田喜重の、知られざるもう一つの側面であるドキュメンタリー作品に
光を当てた上映会である。
愛知県が企画した記録ビデオ作品『愛知の民俗芸能−聖なる祭り
芸能する心−』(92)、『同一都市の祭り 芸能する歓び−』(93)2部作の完成に合わせた催し
でもあり、美術ドキュメンタリー『美の美』シリーズ(74〜77)以降の主要な作品を集成した
個展形式による特集上映であった。
彼は、劇映画(フィクション)と記録映画(ドキュメンタリー)の間に境界線を引かず、
この2つのジャンルのどちらもが「映像を通して何かを表現すること」において違いはない、
という立場に立っている。その方法論は、まず、対象となる素材を制作された当時の
時代・環境にできる限り戻して撮影するという、徹底したリアリズムの追求が挙げられる。
それと同時に、過去の時代に属する対象を現代の視点から眺め、積極的な「読み替え」
を行い、さらには、この2つの時間軸を交錯させてゆく。構造主義との関連も見い出せる
こうした実験的アプローチは、「映像」メディアの本質を追求し、その表現の可能性を
切り開いてゆく彼独自の試みである。
上映作品のうち『美の美』シリーズの約半分は、横浜美術館所蔵のニュープリントであり、
良好なコンディションでの上映は、その先鋭的な撮影技法を知るうえで特筆すべき機会で
あったといえよう。
(越後谷卓司)
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『愛知の民俗芸能 −聖なる祭り 芸能する心−』
『愛知の民俗芸能 −都市の祭り 芸能する歓び−』
『幕末に生きる−中岡慎太郎』
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