ダンス・ルネッサンス

     木佐貫邦子ダンス公演 『カラダの街』
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   木佐貫邦子ダンス公演
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1994年11月25日(金) 19:30 / 26日(土) 14:00  愛知県芸術劇場小ホール
振付・出演: 木佐貫邦子
出演: 安藤洋子、楠田健造
内面を見つめてひたすら創り続け、9作を数える代表作となったソロ・シリーズ 「てふてふ」から早6年たち、近年ではデュオ、アンサンブルなど積極的に取り組んでいる 木佐貫邦子。当センターの開館記念事業では、20分に凝縮されたソロ作品で、 名古屋の観客を一夜のうちに魅了した彼女が、名古屋で初の本公演を行った。

冒頭、深い闇、一筋の光以外何もない舞台の上、木佐貫のたおやかな肢体が静かに 浮かび上がる。

佇み、ゆっくりと直線的に動かしていく腕が印象的に残るシーン1。 全9シーンからなるこの作品は、木佐貫のソロから始まり、若手の安藤、楠田のデュオとの 反復で構成されている。ダンサーとしての実力を見せつけるかのごとく、木佐貫は その特徴ともいえる柔らかな動きに、切れ味のある動きで鋭さをつけ加える。 その上さらにダンサーとしての貫禄と余裕も感じさせながら、小ホールに濃密な空気を 溢れさせていく。

一方、デュオのシーンで出現するのは怒濤のごとき突然のノイズ音。 音に呼応するように現れる男女2人のダンサー。一気に現実へと引き戻される観客。 真っ黒な衣装で、木佐貫のゆく手を阻むかのような2人の激しい動きは、その強度の 継続と鋭敏さを強く要求される。木佐貫が他者の身体を強く意識して、 振付けたシーンである。

暗闇の過去から、未来へと、記憶の糸を手繰り出すよう流れ出していく木佐貫の時間。 そしてそれを断絶させる現実。それは過去を抱え、さらに未来への不安を抱きつつ 進み続けねばらなない現代人を暗示しているかのようだ。この作品で木佐貫は、 初期の頃の内向きの探究とは反対に、内から外へと向かいながら、自己と他者の 「カラダ」そのものを提示してみせた。


精神世界と形の世界をさまようカラダを描いたというこの作品。 それは、過去の全てを享受した上で、さらに先に進もうと強い意志を秘めた 木佐貫自身の現在の姿にも重なって見えた。

(唐津絵理)
Photo : 南部辰雄

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