フォーラム・イベント
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この催しの会場となったフォーラムは、複合文化施設にあって、劇場、美術館、 文化情報センターを結ぶ役割を果たし、愛知芸術文化センターの象徴ともいえる 公共空間である。
地下2階から立ち上がり、2階で一旦クランクした後、12階まで続く吹き抜けは70M。 通常はそれぞれの施設を移動するための広い空間に過ぎないフォーラムで、 パフォーマンスを行うことにより、いつもは通り過ぎてしまうこの空間をダイナミック に変容させ、思いもよらぬ空間で、アートに出会えるという、複合文化施設の新しい 可能性を引き出そうと試みた。

アーティストに与えられたのは、30分という時間と、指定の空間。 この2つの条件を最大限に活かしてそれぞれのアーティストが各自の作品を用意した。 どういう催しになるのか、果たして観客はついてこれるのか。私たちにも予想が 困難だったこの催しについて、以下に出演順にレポートする。

フォーラム・イベントの出発点となったのは、地下2階のフォーラム。開始時間の1時間も 前から地下2階のマルチビジョン前で立ちつくしている浜島嘉幸。このとき撮影した画像を、 パフォーマンスの開始時間に合わせてマルチビジョンに映しながら、浜島はさらにその前に 立ち、ゆっくりと身体を動かし続けた。僅かな動きを続ける浜島の回りの空間は少しずつ 異化され、終わりをむかえる頃には多くの観客が、床や階段に座りこみ、浜島の様子を 見守った。

突然甲高い下駄の音が、上の方から鳴り響き、観客は一斉にその音の出所を確かめようと 視線を上げる。観客の中に紛れていたアンサンブル・ゾネのダンサーたちが、激しい動きを 始めると、観客たちは自分の居場所を求めて移動し始めた。ダンサーたちは、地下2階の 階段から地下1階へと、そして地下1階ではエスカレーター、さらに2階まで上がると フォーラムのエレベーターに乗って、激しい移動を行った。
ダンサーたちのこれらの 移動に伴って、ある観客はエスカレーターの横の階段を駈け上がったり、またある者は 下から上がっていくダンサーを見上げたり、思い思いに移動しながらパフォーマンスを 楽しんでいた。

アンサンブル・ゾネのダンサーたちが、エレベーターで2階から12階までを行ったり来たり しているのを眺めていると、観客の背後から突然演奏が始まった。2階大ホール前の フォーラムに特別に作られた仮設ステージには、エレキ・ギター、ドラム、べース、 そしてオーストラリアの原住民アボリジニの管楽器、ディジュルドゥーが加わり、 通常のジャズやロックとも異なる不思議な音楽を繰り広げた。

マコ・テンポックス+アルファの演奏が終わると同時に、2階の南玄関から外へ続く デッキからは、にぎやかな韓国の打楽器の音が聞こえてきた。サムルノリののりの良い リズムである。外を歩く通りすがりの人々も、少しの間足を止めて彼らの演奏に 見入っていた。演奏を続けながらデッキから中へと入り、仮設ステージの上ではさらに 盛り上がりのある演奏を行い、フォーラム全体が夏祭を思わせる熱気に包まれた。

そしてこの催しの最後に現れたのは、日本を代表するギタリストの渡辺香津美と韓国一の パーカショニストの金大煥。テクニック、即興という柔軟な手法を、わけもなく操る この二人の緊張感溢れる演奏から10分。薄茶の衣装を巻きつけた韓国人ダンサー、 李惠京が加わる。ミュージシャン二人とダンサーのこの共演は、個々人が対等であり、 自らのパフォーマンスを行いながらも、共演相手への優しさを忘れない極めて高度な コラボレーションとなっていた。
1995年7月25目(火)
フォーラム I、II
<出演>
17:45 浜島嘉幸(身体表現)
18:15 アンサンブル・ゾネ
     (モダン・ダンス)
18:45 マコ・テンポックス
      +アルファ(音楽)
19:15 風物魂振(サムルノリ)
19:45 李惠京(モダン・ダンス)
     金太煥(パーカション)
     渡辺香津美(ギター)










フォーラム・イベントは計3時間近くにも渡るパフォーマンスであり、公共スペースという 性質上、いつでも立ち去ることのできる催しであった。しかし、私たちの不安をかき消す ように、地下2階から2階へとスムーズに移動し、一度見始めた観客は、最後までほとんど 帰ることはなかった。初めての試みながら、この空間に多くの可能性を見いだした私たちは、 来年以降もこのフォーラムでさまざまな試みを行い、オリジナリティー溢れる新しい パフォーマンスをプロデュースしていきたいと考えている。
(唐津絵理)
Photo : 南部辰雄

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