画家オーギュスト・ルノワールを父とし、『大いなる幻影』(1937年)や
『ゲームの規則』(1939年)などの映画で知られるジャン・ルノワール(1894−1979年)は、
1895年に始める映画の歴史とほぼ重なり合うようにその人生を刻んでいった、
偉大なるシネアストの1人である。ルノワールは、デビュー作である『水の娘』
(1924年)や『チャールストン』(1927年)、『マッチ売りの少女』(1928年)など、
その最初期において1920−30年代の前衛映画(=アヴァンギャルド映画)の文脈に
連なる作品を手掛けている。ルノワールの初期作品は、今日、実験映画のルーツの
一つに位置づけられているが、それ以降の彼の作品も、映画言語の絶えざる創造で
あったという点で、前衛的、実験的ニュアンスを見ることができるだろう。
本上映会では、これら彼の最初期の作品のほか、30年代以降の彼の前衛的傾向を持つ作品や、
50年代の円熟期の作品のほか、初期作品と同時期の20年代のアヴァンギャルド映画や
関連する作品を特集し、映画における実験性というテーマにアプローチするとともに、
20−30年代の映画状況を浮かび上がらせることを意図した。
「テーマ上映会」は、一つのテーマに即して関連する作品を集中的に観ることができる
機会として、観客から好評を得ている。「アヴァンギャルドとルノワール」という
従来あまり言及されることのなかったテーマを設定した今回も、会期を通して多くの
熱心な観客が会場に足を運んだ。ルノワールの初期作品は、過去にシネクラブでの
自主上映という形で16mm版が上映されてはいるものの、研究対象として本格的に
取り組まれるケースは少なかった。夢のシーンの抜粋版が前衛映画の専門映画館
「テアトル・デュ・ヴィュー・コロンビエ」で上映された経緯から、今日『水の娘』は、
前衛映画の1本に数えられているものの、むしろ実際の作品の印象としてはアメリカ映画
(特にD・W・グリフィス)の影響が濃厚であることなど、今回35mmニュープリントに
よる良好な状態での映写がなされたことによって明らかになった点といえるだろう。
上映に併せおこなわれた講演会では、映画研究家・村山匡一郎が「アヴァンギャルドと
ルノワール」というテーマを取り上げたほか、フランス文学の野崎歓が晩年の小説に
ついて言及するなど、ルノワールについて新たな角度からの光を当てた特集であった。
(越後谷卓司)
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<講演会>
6月28日(土) 15:20
講師/野崎歓(一橋大学大学院助教授)
7月 6日(日) 15:10
講師/村山匡一郎(映画研究家)
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ジャン・ルノワール 『水の娘』 (1924)
ルネ・クレール 『幕間』 (1924)
フェルナン・レジェ 『バレエ・メカニック』 (1924)
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