「現代音楽シリーズ」は、多様な現代の音楽の状況を、現在活躍中の作曲家や演奏家の
語る言葉を通じて紹介する企画で、今回のホセ・マセダの講演会からスタートした。
マセダはフィリピンを代表する作曲家で、同時に、自国フィリピンはじめ東南アジアの
民族音楽研究の第一人者である。
今回は、聞き手として、民族音楽学者の藤井知昭を
迎えて行った。
マセダは、代表作である「ウドゥロッ、ウドゥロッ」(1975)と、最新作の
「ゴングと竹のための音楽」(1997)を取りあげ、楽譜とビデオを使いながら説明した。
「ウドゥロッ、ウドゥロッ」という曲名はフィリピンの公用語タガログ語で
「あちらこちらから」という意味で、数人から千人による声と竹の楽器のための
作品である。マセダはベルリンで行われた公演のビデオを使い、この作品は非常に
シンプルなリズムが重なることで複雑な音の色彩を生み出すことを意図していること、
シンプルな故に誰でも演奏に参加でき、会場によって演奏者が6人から800人まで
対応してきたこと等を語った。
その後、会場の聞き手全員で作品の一部を演奏する簡単なワークショップが行われた。
次に取りあげた「ゴングと竹のための音楽」は、インドネシア・ジャワのガムラン、
日本の龍笛、フィリピンの竹の楽器、そしてコントラ・バスーンと子供の合唱の
ための作品である。
マセダは楽譜とビデオを用い、この作品では、インドネシア、
日本、西洋の別々の歴史と個性をもった音を、どれかに合わせるのではなく、
自立しながら統合された音楽を意図したのだと語った。
その後、藤井よりまとめて質問があり、最後に客席から質問を受け付けた。
マセダは今年80歳を迎えたが、新作作曲等ますます精力的に活躍している。
来日回数は多いが、名古屋へは今回が初めてであり、このような機会が訪れるのを
待っていた観客にとっては直に作曲家を知るよい機会となった。
観客層は、音楽学や作曲を学ぶ学生、学校の音楽教師、音楽愛好家、また音楽研究者や
演奏家等で、作曲家自身による説明を熱心に聞き入っていた。
(藤井明子)
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講演より
「ゴングと竹のための音楽」は新しい作品です。
楽器の編成は、ジャワのガムラン、フィリピンの竹の楽器、メロディのパートには
日本の龍笛とコントラ・バスーン。そして子供たちのコーラスが加わります。
ガムランはインドネシアの音階、龍笛は日本、コントラ・バスーンは西洋の音階なのです。
作曲している時、私は3つの別々の音階をうまく合わせられるだろうかと疑いを持ちました。
リハーサルの時は何か調子があっていない印象がありました。
しかし、今はこの三つをうまく合わせることができたと思っています。
私の耳は別々の音を合わせることができると思います。
本来はばらばらでそれぞれ聞き分けていたものを、一つのものとして聞くことが
できるはずなんです。心の持ち方によって。この曲ではそれが可能です。
それによって、3つの文化、3つの考え方、概念というものを一つにしていくことが
可能であり、それが20世紀の文化だと思います。
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