自主事業:ミニセレ

愛知県芸術劇場×Dance Base Yokohama パフォーミングアーツ・セレクション2023
トリプルビル 目覚めの前のエクリチュール

愛知県芸術劇場は、横浜のダンスハウスDance Base Yokohamaと連携して、新作の創作と発表を行っています。2021年に発表した6作品は、翌年に9つの国内外の劇場でツアーを開催しました。
このたび、新たに3つの世界初演を、愛知県芸術劇場小ホールでご覧いただきます。
時代の空気を掬(すく)いとり身体をメディアとして社会へと問いかける多様なパフォーマンスにどうぞご期待ください。

レビュー掲載のお知らせ(2024/6/20)
鑑賞&レビュー講座2023参加者によるレビューを掲載しました。詳細は以下の「レビュー」よりご覧ください。

当日券のお知らせ(追記)(2023/9/16)
16日(土)18:30公演は、開場時間からは小ホール入口で販売します。

当日券のお知らせ(2023/9/14)
各日10:00より地下2階プレイガイドにて販売いたします。
なお、前売券は愛知県芸術劇場オンラインチケットサービス、地下2階プレイガイド、DaBY Peatixにて各公演の前日正午まで販売しております。

上演順のお知らせ(2023/9/14)
各プログラムの上演順は以下のとおりとなりました。

 1. イリ・ポコルニ『Night Shades』
 2. 島地保武×環ROY『あいのて』
 3. 柿崎麻莉子×アリス・ゴドフリー『Can't-Sleeper』

概要

公演日時

2023年9月16日(土)14:00開演/18:30開演
2023年9月17日(日)14:00開演

※ 開場は開演の30分前
※ 公演時間:約120分(休憩2回含む)

会 場 愛知県芸術劇場 小ホール
プログラム
イリ·ポコルニ
『Night Shades』

演出·振付:イリ·ポコルニ
リハーサル·ディレクター:小㞍健太(DaBYレジデンスアーティスト)
音楽:デヴィッドソン·ジャコネロ
出演:青柳 潤*、佐藤琢哉、戸田 祈* 、 冨永藍音* 、畠中真濃* 、堀川七菜*
*DaBYレジデンスダンサー


ネザーランド·ダンス·シアター(NDT)、キッドピボット(KIDD PIVOT)の元ダンサーで、近年は振付家として欧米のダンスカンパニーで活躍するイリ・ポコルニとDaBYが2020年より3年の月日をかけて取り組んできた新作。21年2月より、DaBYのレジデンスダンサーらとリサーチ·クリエイションを重ねた、自然と人間の繋がりをテーマにした作品。

柿崎麻莉子×アリス·ゴドフリー 新作『Can't-Sleeper』 演出·振付·出演:柿崎麻莉子(DaBYレジデンスアーティスト)
振付·出演:アリス·ゴドフリー


バットシェバ·アンサンブル出身で今世界で注目を集める振付家のシャローン·エイヤール率いるL-E-V ダンスカンパニーのもとで活動してきた柿崎麻莉子とアリス·ゴドフリー(元NDT)が、心地よい「眠り・不眠」をテーマにした新作を上演します。

島地保武×環ROY 新作『あいのて』 演出·振付·出演:島地保武(DaBYゲストアーティスト)
演出·音楽·出演:環ROY(DaBYゲストアーティスト)
ドラマトゥルギー:長島 確


世界的な振付家ウィリアム·フォーサイスとの活動をはじめ、国内外で作品を発表してきたダンサーの島地保武と、音楽を軸にパフォーマンスやインスタレーションといった多彩な領域で活躍するラッパーの環ROYが、前作『ありか』に続きタッグを組み、流動する世界を見つめる新作を発表。

主催·企画制作·共同製作

愛知県芸術劇場、Dance Base Yokohama

助 成 文化庁文化芸術振興費補助金(劇場・音楽堂等活性化・ネットワーク強化事業(地域の中核劇場・音楽堂等活性化))|独立行政法人日本芸術文化振興会
お問合せ

愛知県芸術劇場

TEL: 052-211-7552(10:00~18:00) FAX: 052-971-5541
Email: contact△aaf.or.jp(「△」を「@」に置き換えてください。)
※ 6月の月曜日は電気設備点検のため休館いたします。一部ウェブサイトの閲覧やFAX 受信ができない場合があります。

チケット情報

チケット料金

全席自由·整理番号付
一般 4,500円 U25 2,500円

※【U25】は公演日に25 歳以下対象(要証明書)
※ 車椅子席、団体割引(10 名以上)は劇場事務局(TEL 052-211-7552 /contact@aaf.or.jp)にて取扱い
※ 3歳以下入場不可。 託児サービスあり[9月16日(土)14:00 のみ/有料·要予約]
※ 開演後のご入場はお待ちいただく場合があります。
※ やむを得ない事情により、内容、出演者等が変更になる場合があります。

チケット取扱

チケット発売:2023年6月30日(金)10:00~

愛知県芸術劇場オンラインチケットサービス

愛知県芸術劇場オンラインチケットサービス チケット予約·購入

愛知芸術文化センタープレイガイド(地下2階)

TEL 052-972-0430

平日10:00-19:00 土日祝休10:00-18:00 (月曜定休/祝休日の場合、翌平日・年末年始休12/28-1/3)

DaBY Peatix

https://dpas2023-aichi.peatix.com/

※購入方法によりチケット代金のほかに手数料が必要になる場合があります。

鑑賞サポート

観劇·鑑賞サポート

視覚に障がいのあるお客さまへの鑑賞サポート

事前にパンフレットのデータをEメールでお送りできます。
※ご希望の方は 劇場事務局 へご連絡ください。

託児サービス
(有料・要予約)

【9月16日(土)14:00のみ】

対象:満1歳以上の未就学児
料金:1名につき1,000円(税込)
申込締切:2023年9月9日(土)まで
お申込み·問合せ:
 オフィス·パレット株式会社
 TEL 0120-353-528(携帯からは052-562-5005)
 月~金 9:00~17:00、土 9:00~12:00(日・祝日は休業)

プロフィール

イリ・ポコルニ (演出・振付 )
Jirˇí Pokorný

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Photo Clacdia Greco

1981年チェコ、プラハ出身。プラハ国立コンセルヴァトワール卒業後、ラテルナ・マギカ・ダンスカンパニー(プラハ)に入団。2003年ネザーランド・ダンス・シアター2(NDT2)に移籍、2006年ネザーランド・ダンス・シアター1(NDT1)に昇格し、Jiri Kylian、Mats Ek、Ohad Naharin、Paul Lightfoot、Sol Leon、Crystal Piteなどの数々の有名な振付 家の作品を踊る一方で、毎年行われている振付ワークショップ“Switch”にて短編作品の創作を機に振付を始め、現在ではネザーランド・ダンス・シアター2、バーゼルバレエ劇場、ノースウェスト・ダンス・プロジェクト、アテルバレット、マンハイム歌劇場、ブタペスト・ダンス・シアター、プラハチェインバーバレエ、コルゾプロダクションなど数多くのカンパニーへ振付作品を委託される。 近年では、ハーグ王立音楽院(ハーグ)、ジュリアード音楽院(ニューヨーク)、NDT(夏期講習)、アーキタンツ(東京)などに赴き定期的に指導を行う。また、コルゾシアター主催の若い振付家へ向けた「The Pioneer Project」を企画から立ち上げ教育プログラムを監修している。

柿崎麻莉子 (演出・振付・出演)
Mariko Kakizaki

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Photo morikohga

DaBYレジデンスアーティスト。香川県出身、元新体操選手。 Batsheva ensemble Dance Company(2012-2014)に所属後、L-E-V Sharon Eyal|Gai Behar(2015-2021)に所属し、世界各国で公演・WS指導を行う。2011年韓国国際ダンスフェスティバル金賞、2013年度香川県文化芸術新人賞、2014年Israel Jerusalem Dance Week Competition、2020年日本ダンスフォーラム賞、2021年日本ダンスフォーラム賞、など受賞。2021年カルチャーセンター「beq」を熊本にOPENし、文化や芸術をカジュアルに楽しめる場を目指して活動中。「GAMAMA」を主催し、オンラインWSなどを実施。Gaga指導者。愛知県芸術劇場×DaBY「パフォーミングアーツ・セレクション」では鈴木竜演出・振付『When will we ever learn?』『never thought it would』に出演。

アリス・ゴドフリー (振付・出演)
Alice Godfrey

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1994年、ナミビアのウィントフック出身。南アフリカ共和国のケープタウンで育ち、そこでダンスのトレーニングを受け、高校卒業後はカナダ国立バレエ学校のポストセカンダリープログラムに参加。アーティスティックディレクターであるMavis Stainesのもとで学ぶ。 2014年にネザーランド・ダンス・シアター2(NDT2)に入団。2017年にNDT1へ移籍。2019年以降、ダンスカンパニーL-E-VにてSharon Eyalと共に活動。またフリーランスのアーティストとして様々なプロジェクトに取り組み、フェルデンクライスの認定プラクティショナーを目ざしている。

島地保武 (演出・振付・出演)
Yasutake Shimaji

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Photo ryu endo

DaBYゲストアーティスト。2006~15年ザ・フォーサイス・カンパニーに所属。酒井はなとのユニットAltneu〈アルトノイ〉を結成。資生堂第七次椿会メンバーになりパフォーマンスに加えインスタレーション作品を展示。近年は、愛知県芸術劇場制作での環ROYと共作共演の『ありか』、フランス国立シャイヨー劇場のレジデンスプログラム(ファブリック・シャイヨー)に日本人で初めて選ばれ滞在制作をし『Oto no e』を創作。DaBYの企画では「ダンスの系譜学」ウィリアム・フォーサイス振付、『Study # 3』よりデュオに安藤洋子と出演。

環ROY (演出・音楽・出演)
Tamaki Roy

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DaBYゲストアーティスト。1981年、宮城県生まれ。主にラップを用いた音楽作品の制作を行う。これまでに6枚の音楽アルバムを発表、国内外の様々な音楽祭に出演。近年は、パフォーマンス『ありか』パリ日本文化会館(2020年)、絵本『ようようしょうてんがい』福音館書店(2020年)、展示音楽『未来の地層』日本科学未来館(2019年)、NHK教育『デザインあ』コーナー音楽(17年)、映画『アズミ・ハルコは行方不明』劇伴音楽(2016年)などの制作を行う。ミュージックビデオ「ことの次第」が第21回文化庁メディア芸術祭にて審査委員会推薦作品へ入選。

メッセージ/インタビュー

「パフォーミングアーツ・セレクション2023」にて作品を発表するアーティストとの対談シリーズ。

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リ・ポコルニ×唐津絵理
自然と人間の関わりを描く新作『Night Shades』

【 vol.1】2023/9/9(Sat)

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島地保武×環ROY×唐津絵理 鼎談
コントから発展する新作『あいのて』

【 vol.2】2023/9/6(Wed)

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柿崎麻莉子と唐津絵理による対談
「不眠」をテーマに取り組む新作『Can’t-Sleeper』

【 vol.2】2023/8/30(Wed)

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柿崎麻莉子と唐津絵理による対談
「不眠」をテーマに取り組む新作『Can’t-Sleeper』

【 vol.1】2023/8/28(Mon)

レビュー

鑑賞&レビュー講座2023参加者によるレビュー

鑑賞公演:2023年9月16日(土)14:00開演/18:30開演
鑑賞公演:2023年9月17日(日)14:00開演
鑑賞公演:愛知県芸術劇場×Dance Base Yokohama パフォーミングアーツ・セレクション2023

鑑賞公演:トリプルビル 目覚めの前のエクリチュール
鑑賞公演:愛知県芸術劇場 小ホール

愛知県芸術劇場では舞台芸術を言葉で紡ぎ、レビューを執筆することも舞台と観客とのコミュニケーションの一つと考えています。
以下の作品は、講師アドバイス、推敲を経て完成した2023年度ステップアップライターの作品です。

 

 2023年9月17日(日)、愛知県芸術劇場×Dance Base Yokohama「パフォーミング・アーツセレクション2023トリプルビル目覚めの前のエクリチュール」が愛知県芸術劇場小ホールで上演された。「パフォーミング・アーツセレクション」は、愛知県芸術劇場とDance Base Yokohamaが官民連携を行うことによってアーティストやスタッフが創作から上演、再演を最良の環境で行えるように企画されたプロジェクトである。名古屋では3組のアーティストが「夜」「眠り」「意識」「記憶」等をテーマにして個性豊かな「エクリチュール(書かれたもの・表現)」を披露した。

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©Naoshi Hatori

 チェコ出身の若手振付家として注目され、近年はハーグ王立音楽院やジュリアード音楽院等にも招聘されるイリ・ポコルニの新作『Night Shades』は、DaBYゆかりの6名のダンサーが有機的な身体のつながりで、夜をイメージさせるグレーの照明の下で、人間の自然との繋がりをファンタジックに表現する。一人一人が役割を担った群舞の迫力の中に、個々の明快な動きが組み込まれ、個と集団の表現の対比が美しい。

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©Naoshi Hatori

 続く島地保武と環ROYの新作「あいのて」は、生活の一部を切り取ったような空間から、ふと出てきた言葉でパフォーマンスが始まる。「意識」「記憶」「感情」「体」といったテーマから環が放つ言葉を島地がダンスで返すやり取りが、心地よく会場に馴染んでいく。島地はウィリアム・フォーサイスのカンパニーで踊った経歴もあり、2021年の「パフォーミング・アーツセレクション」では、同じカンパニーで踊っていた安藤洋子と、20世紀の舞踊を変革したフォーサイスの独特なスタイルを発展させた骨太なデュエットを踊った。それに対して今回の島地は、環が繰り出す激しい語りに即興で応え、器用に踊る島地の引き出しの多さには脱帽する。

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©Naoshi Hatori

 最後は、柿崎麻莉子とアリス・ゴドフリーによる『Can’t-Sleeper』。「目の前で妖精が踊ってくれたらこの夜も楽しいのに」という柿崎の妄想からクリエイションされたこのダンスは、穏やかな音楽に乗って2人のぴったりと合ったユニゾンが繰り広げられ、さらにコール&レスポンスを思わせるやり取りによって観客もだんだん夜が更けていくような錯覚に陥る。終盤は柿崎が観客から集めた「眠れないときの対処法」からのアンケート「眠れないときの対処法」を1枚ずつ読み、その言葉に反応して後方でゴドフリーが即興で踊る。眠れない夜にファンタジーの世界に引き込まれ、心穏やかになるかのような、柔らかな時間を提供してくれる珠玉のステージだ。

音楽、ダンス、パフォーミング・アーツの世界では「初演されたものが再演される機会が少ない」と嘆くアーティストが多く存在するという。その点で、この取り組みは新作を披露する場というだけでなく、再演を重ね、より表現が練り上げられていく大きな価値がある。愛知県芸術劇場で花開いたパフォーマンスが、この後に日本各地の3つの会場で再演されることでパフォーミング・アーツの重要なレパートリーになっていくことを願っている。

小町谷 聖(鑑賞&レビュー講座2023ステップアップライター)

 

「パフォーミングアーツ・セレクション」はDance Base Yokohama(DaBY)と愛知県芸術劇場が連携し、創作から上演、再演を支援する企画だ。今回、全国ツアーの幕開けとなる愛知では「パフォーミングアーツ・セレクション2023トリプルビル 目覚めの前のエクリチュール」を上演した。

 

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©Naoshi Hatori

 元NDT(ネザーランド・ダンス・シアター)のイリ・ポコルニは、屋久島での経験を題材に『Night Shades』を初演。Organ Worksの佐藤琢哉や、DaBYの戸田祈ら男女6人が踊った。冒頭、暗闇の中で口笛のような音楽と深い森を思わせる動物の鳴き声が流れ、ダンサーの頭につけた懐中電灯が漆黒を照らす。すると暗闇の中を蠢く影と気配がダンサーを取り囲み、ダンサーの五感が研ぎ澄まされていく。生と死が共存する極限の自然環境は、生物たちに生き抜くための闘いを誘発する。6人は集散をくり返しソロやデュオ、ユニゾンを展開していく。特に戸田と佐藤の素早くかつ鋭いデュオは命の鬩ぎ合いを可視化する。やがて激しい戦いの後で、戸田は倒れ込んでしまう。佐藤は戸田を見捨てることができずに戸田の肩に優しく腕を回して抱え起こす。それを契機に攻撃的な群舞は、身を委ね合う群舞へと姿を変え、綿密な軌道を描く。弱い生物ほど攻撃的になるという脆弱性によってもたらされた闘いは、その脆弱さゆえに助け合いへと形を変える。作品はその脆弱性がもつ両義性を視覚化し、その強さを我々に訴えかける。

 

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©Naoshi Hatori

 島地保武と環ROYは新作『あいのて』を上演し、踊りの島地と語りの環の新たなコラボレーションを生み出した。島地は、手首を折り曲げる硬質なマテリアルのダンスから、全身をあらゆる方向にアクセスするダイナミックなダンスまで、多彩な動きを編み込んでいく。一方、環は発声の抑揚やリズムが巧みで観客を引き込む。二人の関係性は相互作用的だ。たとえば環がラッパーのカニエ・ウェストの話をしていると、それを聞いていた島地は、カニエから連想してカニの話をし始める。お互いが影響を受け島地は動きを、環は語りを変容させていく。意識と無意識、衝動と感情、それを大きく左右する他者性を視覚化した。

 

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©Naoshi Hatori

 『Can't-Sleeper』は柿崎麻莉子とアリス・ゴドフリー(元NDT)が共同振付した不眠がテーマの作品だ。ユニークな点は作品が始まる前に観客たちが「眠れない時に何をするか」というアンケートに答えることだ。パジャマを思わせる透けた服を着たふたりがプレゼントボックスに大切そうにラッピングすると、淡いピアノの音楽が流れる。彼女たちはアラベスクなどのバレエを基軸にした身体動作と欠伸の仕草を織り交ぜ暗闇を徘徊するが、間歇的に入る不快なノイズが睡眠を妨げる。だが、中盤に流れる眠れない時の知恵を教えてくれるおばあちゃんの声、あるいはプレゼントボックスに入っていた観客が書いたアンケートを柿崎が読み上げる時、彼女たちは温かな眼差しに包み込まれ、安らかな眠りが訪れる。

3つの作品は、コロナ禍において希薄になってしまった他者性を主題に含んでいた。このトリプルビルは、コロナ禍が終わり他者の身体性に溢れた世界へと我々を目覚めさせる優しいエリクチュールだったのだ。

杉本 昇太(鑑賞&レビュー講座2023ステップアップライター)

   

「パフォーミングアーツ・セレクション」は愛知県芸術劇場とDance Base Yokohama(DaBY)が連携し、アーティストやスタッフが創作から上演、そして再演を最良の環境で行えるよう企画されたダンスプロジェクトである。「目覚めの前のエクリチュール」は個性豊かな3組のアーティストによる世界初演の作品で構成されている。このようなトリプルビル形式の公演は、作品同士を比較することでそれぞれの個性が際立ち、表現の自由さ、解釈の多様さがよりはっきりと浮かびあがる効果がある。観客は様々な表現方法に触れ、好奇心を刺激される喜びを味わうことができるだろう。

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©Naoshi Hatori

 『Night Shades』
この作品は演出・振付のイリ・ポコルニが屋久島の古代林で経験したことからインスピレーションを受けた世界観を描いている。暗闇の中で響く口笛とともに森への探検が始まると、ヘルメットに装着したヘッドライトが照らす先に不気味な素早さでうごめく影たちの気配を感じる。その姿をはっきりと見ることはできないが、目を凝らし、耳を澄ますことで、さらに深い森の奥へ奥へと進む感覚になる。次第に景色がうっすらと光に照らされると、生き物たちの生々しくも神秘的なやり取りが浮かびあがってくる。6名のダンサー(青柳潤・富永藍音・佐藤琢哉・畠中真濃・戸田祈・堀川七菜)は人間が未知の状況下で自然と対峙する様子をソロや群舞でバリエーション豊かに紡ぎ出してみせた。

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©Naoshi Hatori

 『あいのて』
島地保武×環ROYのコラボレーションによる、ダンスとラップが融合したパフォーマンスである。二人が語る「言葉」が大きなウエイトを占めており、コント的な要素も楽しめる作品だ。冒頭、環が一人で舞台に現れ客席に語り掛ける。意思、意識、感情、記憶について語られる言葉はどこか哲学的でありながら、その口調は世間話のようなざっくばらんな響きがあり、私たちの中に違和感なく入り込んでくる。一方、島地は無音の中、シャープなダンスを踊るかと思えば、ビアノに合わせて優雅に舞い、環の言葉に合わせてコミカルな動きを見せることも。タイトル『あいのて』は「合の手を入れる」という意味合いだろう。二人の言葉、ダンス、ラップが撚り合わさって畳みかけるような展開となり、言葉と動きのシュールさも相まって、客席は時に大きな笑いに包まれた。

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©Naoshi Hatori

 『Can’t-Sleeper』
柿崎麻莉子とアリス・ゴドフリーによる不眠症をテーマにした作品。「眠れない夜にふと思い出して安心できるようなダンスを作りたい」という柿崎の思いがクリエイションのきっかけとなっている。ゆったりとしたピアノ曲に合わせ、柿崎とゴドフリーがシンクロした振付で踊る。柔らかで繊細な動きはまるで妖精のようで、自然と夢の中に誘われてしまいそうな心地よさだ。あくびをしたり眠そうなそぶりを見せたりする振付もかわいらしい。このパフォーマンスには観客との間にちょっとした仕掛けがある。客席からアンケートで集めた「眠れない夜の過ごし方」を柿崎が一枚ずつ読み上げていき、それに合わせゴドフリーが舞う。ラジオを聴く、本を読むといった何気ない過ごし方に耳を傾けるうちに、一期一会の観客同士で不思議な連帯感が芽生えてくる。この日の体験は、柿崎のねらいどおり、眠れない夜の不安をふっとほどいてくれるだろう。

横井 ゆきえ(鑑賞&レビュー講座2023ステップアップライター)

 

(※無断転載を禁じます)