自主事業:ミニセレ

サウンドパフォーマンス・ プラットフォーム特別公演
安野太郎 ゾンビ音楽 『大霊廟Ⅳ -音楽崩壊-』

2012 年から継続している作曲家・安野太郎のライフワーク「ゾンビ音楽」は、その特異な音楽とビジュアルイメージを伴って世界的な評価を得てきた。元々「ゾンビ」という存在を通して現実の社会へのまなざしを持っていたゾンビ音楽は、近年において実際に取材やインタビューを通して実社会に切り込み、その現実を音楽と共に舞台に上げるという手法を獲得しつつある。
 いま、安野の前にはふたつの現実がある。「音楽大学を出ても音楽家として食べてゆくのは困難な社会」という現実。そして「困難な人生を歩むことになるであろう音大生たちを指導する立場になった音大教員としての自分」という現実だ。かつてフリーの音楽家としての自分を貧乏のどん底に突き落とした「音大」に、今度は教員として参加する立場になってしまった。
 そこに現れるのは「改革すべきシステム」なのか「一流音楽家のための夢の城」なのか、またはそれ以外の曖昧な何かなのか。現代社会の奇妙な存在「音大」の姿を、安野の自己像を投影するかのように蠢き揺れ動く「ゾンビ」たちの振る舞いから浮かび上がらせようとする「ミュージック&ドキュメンタリー」の試みである。

ゾンビ音楽とは

安野太郎による、ゾンビと呼ばれる自動演奏ロボットが笛を演奏する音楽のプロジェクト。笛を演奏する為の運指をn ビット(リコーダーの場合は8 ビット)の数列に見立て、その数列を構成することによって作曲されている。このような数理的な作曲法や必ずしも正確に動作するわけではない手製の自動演奏装置から紡がれる音楽は、普通の人間の感覚からすると西洋音楽等のハーモニーから外れた「不正確な音楽」に聴こえることになる。このことを正常な人間に対する不正確な存在である「ゾンビ」になぞらえて、正常な音楽に対して「ゾンビ音楽」と呼んでいる。ここには「正確」であることは果たして音楽にとって本当に重要なことであるのか?という疑問と共に、果たして「正確な人間」などというものは存在するのだろうか?という安野の人間観も現れている。
 これまでに2枚のアルバム(「DUET OF THE LIVINGDEAD」「QUARTET OF THE LIVINGDEAD」)を、pboxx レーベルよりリリース。2015 年のF/T15 参加をきっかけに、大型のふいご装置によるゾンビ音楽のスタイルが完成。以降この装置による編成を「大霊廟」と呼んでいる。17 年、この編成による作品『大霊廟』(岐阜県美術館)で、清流の国ぎふ芸術祭 Art Award IN THE CUBE 2017 審査員賞(高橋源一郎)。22年には「『大霊廟Ⅲ』– サークル・オブ・ライフ–」(京都芸術センター)を成功させた。

レビュー掲載のお知らせ(2024/6/26)
鑑賞&レビュー講座2023参加者によるレビューを掲載しました。詳細は以下の「レビュー」よりご覧ください。

当日券のお知らせ(2023/10/12)
 14日(土)14:00公演:10:00~ 地下2階プレイガイド
 14日(土)18:30公演:10:00~18:00 地下2階プレイガイド、18:00~ 小ホール入口
 15日(日)13:00開演:10:00~ 地下2階プレイガイド
 なお、前売券は愛知県芸術劇場オンラインチケットサービス、地下2階プレイガイドにて各公演の前日正午まで販売しております。

概要

公演日時 2023年10月14日(土)14:00開演/18:30開演
2023年10月15日(日)13:00開演

※ 開場は開演の30分前
※ 上演時間:約90分 約100分(休憩なし)

*サントリー芸術財団佐治敬三賞 推薦コンサート

会 場 愛知県芸術劇場 小ホール
後援 愛知県立芸術大学
助成

文化庁文化芸術振興費補助金 劇場・音楽堂等活性化・ネットワーク強化事業(地域の中核劇場・音楽堂等活性化)| 独立行政法人日本芸術文化振興会

主 催・お問合せ

愛知県芸術劇場

TEL: 052-211-7552(10:00~18:00) FAX: 052-971-5541
Email: contact△aaf.or.jp(「△」を「@」に置き換えてください。)

スタッフ・キャスト

スタッフ・キャスト

作曲・作・演出など:安野太郎

出演:
今井貴子(フルート奏者)
大内孝夫(名古屋芸術大学教授・『音大崩壊』著者)
内藤穂乃果(愛知県立芸術大学声楽専攻・3年生)
安野太郎(作曲家・愛知県立芸術大学准教授)

中ムラサトコ(ボイスパフォーマー)
大石駿介(キックボクシング元世界チャンピオン)

大石愛莉(愛知県立芸術大学作曲専攻・4年生)
望月郁亜(愛知県立芸術大学作曲専攻・3年生)

映像・演出補・ブレーン:小野寺啓
舞台監督:渡部景介
音響:山口剛(合同会社ネクストステージ)
照明:畔上康治(愛知県芸術劇場)
制作:菅井一輝
プロデューサー:藤井明子(愛知県芸術劇場)

チケット情報

チケット料金

全席自由・入場整理番号付
一般 3,000 円
U25 1,000 円

※ U25は公演日に25歳以下対象(要証明書)。
※ 車いすでご来場の方は、チケット購入後、 劇場事務局 までご連絡ください。
※ 未就学児入場不可。 託児サービス あり。
※ やむを得ない事情により、内容・出演者等が変更する場合があります。

チケット取扱

チケット発売 2023年9月15日(金)10:00~

愛知県芸術劇場オンラインチケットサービス チケット購入

愛知県芸術劇場メンバーズへの登録が必要です。詳細はこちら

愛知芸術文化センタープレイガイド(地下2階)

TEL 052-972-0430

平日10:00-19:00 土日祝休10:00-18:00 (月曜定休/祝休日の場合、翌平日・年末年始休)

鑑賞サポート

託児サービス
(有料・要予約)
【15日(日)公演のみ】

対象:満1歳以上の未就学児
料金:1名につき1,000円(税込)
申込締切:2023年10月7日(土)まで
お申込み・問合せ:
 オフィス・パレット株式会社
 TEL 0120-353-528(携帯からは052-562-5005)
 月~金 9:00~17:00、土 9:00~12:00(日・祝日は休業)

プロフィール

安野 太郎
Taro Yasuno

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(c)古泉 智浩

作曲家。1979 年生まれ。日本人の父とブラジ ル人の母を持つ。いわゆるDTM やエレクトロサ ウンドとしてのコンピューター・ミュージックとは異 なる軸で、テクノロジーと向き合う音楽を作って いる。代表作に『音楽映画』シリーズ、『サーチ エンジン』、自作自動演奏楽器の演奏による『ゾ ンビ音楽』シリーズ。  近年の活動に「大地の芸術祭 越後妻有アー トトリエンナーレ」参加(2021)、個展「安野 太郎:アンリアライズド・コンポジション『イコン2020-2025』」(アートフロントギャラリー/2020)、 「Cosmo-Eggs|宇宙の卵」(第58 回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 日本館代表作家チームとし て/2019)等。愛知県芸術劇場では、07 年第2 回サウンド・パフォーマンス道場オーディエンス 賞受賞、16 年「パフォーミングアーツ・セレクション」出演。第7 回JFC 作曲賞(日本作曲家協議会)、 第10 回創造する伝統賞(日本藝術文化財団)受賞。東京音楽大学作曲科卒業。情報科学芸術 大学院大学(IAMAS)修了。2023 年現在、愛知県立芸術大学准教授。

ニュース

2023.10.14

ステージナタリー:安野太郎のゾンビ音楽「大霊廟IV-音楽崩壊-」本日スタート

https://natalie.mu/stage/news/544985

2023.10.10

中日新聞Web:【動画】「ゾンビ音楽」安野太郎さんが披露

https://www.chunichi.co.jp/article/772011

2023.8.18

OutermostNAGOYA:サウンドパフォーマンス・プラットフォーム特別公演 安野太郎 ゾンビ音楽『大霊廟Ⅳ -音楽崩壊-』愛知県芸術劇場小ホールで2023年10月14,15日に開催

https://www.outermosterm.com/zombie-music/

2023.8.18

PressWalker:安野太郎 ゾンビ音楽『大霊廟Ⅳ-音楽崩壊-』

https://presswalker.jp/press/20104

2023.8.18

ステージナタリー:安野太郎によるプロジェクト・ゾンビ音楽「大霊廟IV 音楽崩壊」

https://natalie.mu/stage/news/537443

レビュー

鑑賞&レビュー講座2023参加者によるレビュー

鑑賞公演:2023年10月14日(土)14:00開演/18:30開演
鑑賞公演:2023年10月15日(日)13:00開演
鑑賞公演:サウンドパフォーマンス・ プラットフォーム特別公演

鑑賞公演:安野太郎 ゾンビ音楽 『大霊廟Ⅳ -音楽崩壊-』 

鑑賞公演:愛知県芸術劇場 小ホール

愛知県芸術劇場では舞台芸術を言葉で紡ぎ、レビューを執筆することも舞台と観客とのコミュニケーションの一つと考えています。
以下の作品は、講師アドバイス、推敲を経て完成した2023年度ステップアップライターの作品です。

 

『大霊廟Ⅳ-音楽崩壊-』は作曲家、安野太郎がライフワークとしている「ゾンビ音楽」の最新形となる。ゾンビ音楽とは人間と対比してロボットの指がプログラミングにのっとって演奏する音楽だ。安野は2012年からゾンビ音楽を使ったパフォーマンスを続けており、乱立するモノリスを彷彿とさせる特異なビジュアルイメージと、社会への眼差しでもって世界的な評価を獲得してきた。

 安野が今回テーマにするのは「音楽を教える立場」になった視点から見る音大という場についてだ。宣伝用チラシの説明文にはこう記載されている。「いま、安野の前にはふたつの現実がある。「音楽大学を出ても音楽家として食べて行くのは困難な社会」という現実。そして「困難な人生を歩むことになるであろう音大生たちを指導する立場になった自分」という現実だ。」

 『大霊廟Ⅳ』はそんな音大生たちを起用する場としても機能している。今公演には音大生が数多く出演し、その個性を発揮してパフォーマンスをする。「音大で学んでもそのスキルを活かせる場がない」という現状に対する安野の一つの回答にもなっているのではないだろうか。

 舞台は「事前に集めた質問に回答する」パートと「ゾンビ音楽の演奏」のパートが交互に挟み込まれる形で進行する。どの質問に答えるかはガチャガチャにより選出され、その質問に安野たちキャスト陣が即興で回答していく。キャスト陣は鞴を踏んで楽器に空気を送り込み、楽器がブーブーとボールから空気が抜けるような音を上げる中、息も切れ切れになりながら質問に回答するのだ。ここで浮かび上がってくるのは、出演者たちの身体性だ。安野たちは時にキックボクシングも交えながらその身体で音を作り、奏でる。『大霊廟Ⅳ-音楽崩壊』では出演者の身体性、音大生たちの人生という人間らしさに軸足を置いたことで、「ゾンビ音楽」と人間が奏でる音楽との対比をさらにソリッドに映し出す。

   公演を通して安野たちは音楽家のリアルな姿を見せる。『大霊廟Ⅳ』は音楽大学が抱える問題をテーマにしながら、それを糾弾するようなジャーナリスティックな方向ではなく、あくまで個人の視点を重視した「アート」の形で観客に思考を促してみせる。そこには音大生が「不幸」か「幸福」かの二元論で語られることを避ける意味もあるのではないだろうか。安野は練習中も「面白い、面白くない」といった観点でのジャッジを嫌うらしい。アートは「面白さ」や「生産性」といった二元論を超えたところにのみ存在しうるのだ。

加藤 隼一(鑑賞&レビュー講座2023ステップアップライター)

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©丸尾隆一

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©丸尾隆一

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©丸尾隆一

2023年10月14日(土)、サウンドパフォーマンス・プラットフォーム特別公演 安野太郎ゾンビ音楽『大霊廟Ⅳ―音楽崩壊―』が愛知県芸術劇場小ホールで上演された。

 作曲家、安野太郎の代表作、ゾンビ音楽「大霊廟」シリーズの最新作である。安野が取り組んでいる“ゾンビ音楽”とは、DTP(デスクトップミュージック)等とは異なるテクノロジーの側面を音楽で表現するもので、自動演奏ロボットが笛を奏でる音楽である。「大霊廟」は大型の鞴を踏みながら表現する「人力・労働」と、自動演奏ロボットという「機械・システム」との関係性から、人間にとっての音楽の在り方を考えさせるパフォーミング・アーツである。今回のテーマは「音楽大学システムと音楽家」である。 会場に入ると、ステージ奥中央には大きな直方体のインスタレーションがある。その左右に人が乗って漕ぐ大きな鞴(ふいご)が設置され、その前に、12体の笛を演奏するゾンビロボットが透明な円筒の中に入って立っている。下手奥には大きなガチャガチャが、手前には大きなオルゴールと銅鑼やオルガンがある。「霊廟」とは死者を祀るために建てられた建物を指すが、音楽を聴く前に「ゾンビ」や「畏怖」といったものを想像させる世界観のある舞台装置に圧倒された。

 パフォーマンスは一連の流れで行われた。まず「パンチャー」と呼ばれる2名の現役音大生が下手側にある大きなガチャガチャを回し、出てきたトークテーマのメモをステージ前の長いパンチシートに記録する。パンチシートがオルゴールに送り込まれていくと、下手にいた女性「オルゴーラー」がトークテーマのメモを読み上げ、オルガンや声でパフォーマンスをする。音大生であるパンチャーの二人は、マイクで互いの進路についてやり取りをしてパフォーマンスのきっかけを作る。ステージ後方では、4人の音楽大学関係者と思われる人たち「フイガー」が、大きな鞴を一生懸命踏んで空気を送り出す。鞴を踏むリズム、空気が漏れる音等が、音楽にも聞こえる。鞴を踏みながら4人は、それぞれの立場からトークテーマに沿って音楽大学の現状について思うことを口々に言い出す。音楽大学の内部構造が何やら複雑で、会話自体は楽しそうではあるものの、辛辣さも感じさせる。話が熱を帯びてくると突然、キックボクサーが上手側に登場し、鞴を踏んでいた安野が、服を脱いでキックボクサーに挑みかかる。ゴングが鳴ると、キックボクシングは終わり、プログラミングされたステージ前の巨大な自動演奏ロボットが、笛をぎこちない音程で、もの悲しげに演奏する。そしてパンチャーの2人が再びガチャガチャを行う、その流れが複数回繰り返される。

 鞴を踏む音と共に聞こえてくる言葉は「『音楽大学』は『音楽をする』ことより、『社会的、経済的な面のコンプレックス』が支配する場所なのか?」と、観客をいたたまれない気持ちにさせる。現代では経済的、社会的な高みを求めるような人間より、文化的な人間が必要とされているのではという問いかけにはなるほどと頷かされる。最後にフルート奏者の女性が言い放った「人がいない音楽は音楽ではない」という言葉が心に刺さる。システムよりも「人と共に音楽をする場」としての音楽大学が、そこに集う人々の心にはあるのだというメッセージが十分に伝わってきた。いたたまれない気持ちも、その一言でスカッと晴れる。ロボットの自動演奏は心なしか、徐々に観客の心を明るくしてくれていたように感じられた。

小町谷 聖(鑑賞&レビュー講座2023ステップアップライター)

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©丸尾隆一

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©丸尾隆一

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©丸尾隆一

 

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