自主事業:ミニセレ

ヌトミック+細井美裕 マルチチャンネルスピーカーと身体のための演劇作品
『辿り着いたうねりと、遠回りの巡礼』

2021年に共作した『波のような人』以来、ヌトミックの額田大志とサウンドアーティストの細井美裕が再タッグ!

当日券のお知らせ(2023/10/26)
各公演、開演30分前より小ホール入口にて販売いたします。
なお、前売券は愛知県芸術劇場オンラインチケットサービス、地下2階プレイガイドにて各公演の前日正午まで販売しております。
※ 10/27(金)は、19:00/20:30公演ともに、前売券完売のため当日券の販売はございません。
※ 開演後の入場はできませんので、時間に余裕をもってお越しください。

概要

公演日時 2023年10月27日(金)19:00開演売切20:30開演売切
2023年10月28日(土)11:00開演◎/12:30開演◎/17:00開演/18:30開演
2023年10月29日(日)11:00開演★/12:30開演/15:30開演/17:00開演
◎ 託児サービスあり
★ 鑑賞サポート(視覚障がいのある方への舞台の事前説明)あり

※各公演定員20名程度
※上演時間:約30分
※ 開場は開演の15分前

会 場 愛知県芸術劇場 小ホール
助成

文化庁文化芸術振興費補助金 劇場・音楽堂等活性化・ネットワーク強化事業 (地域の中核劇場・音楽堂等活性化)|独立行政法人日本芸術文化振興会

協力 高原文江(山口情報芸術センター[YCAM])、一般社団法人ベンチ、有楽町アートアーバニズムYAU、みんなのひろば
主催・製作・企画制作/お問合せ

愛知県芸術劇場

TEL: 052-211-7552(10:00~18:00) FAX: 052-971-5541
Email: contact△aaf.or.jp(「△」を「@」に置き換えてください。)

スタッフ・キャスト

出演者・スタッフ

テキスト・演出:額田大志*
サウンド・演出:細井美裕
テクニカルディレクター、サウンド/ライティングシステム:伊藤隆之
出演:長沼航*、深澤しほ*、原田つむぎ*

*ヌトミック

舞台監督:世古口善徳(愛知県芸術劇場)、さかいまお
照明:鷹見茜里(愛知県芸術劇場)
テクニカルスーパーバイザー:山口剛(合同会社ネクストステージ)
配信テクニカルアドバイザー:イトウユウヤ
宣伝美術:田中せり
制作:村松里実
プロデューサー:山本麦子(愛知県芸術劇場)

チケット情報

チケット料金

全席自由
一般 1,000 円
U25 500 円

※ U25は公演日に25歳以下対象(要証明書)。
※ 車いすでご来場の方は、チケット購入後、 劇場事務局 (問合せ先)までご連絡ください。
※ 未就学児入場不可。 託児サービス あり。(鑑賞サポートをご覧ください。)
※ やむを得ない事情により、内容・出演者等が変更する場合があります。

チケット取扱

チケット発売 2023年9月15日(金)10:00~

愛知県芸術劇場オンラインチケットサービス チケット購入

愛知県芸術劇場メンバーズへの登録が必要です。詳細はこちら

愛知芸術文化センタープレイガイド(地下2階)

TEL 052-972-0430

平日10:00-19:00 土日祝休10:00-18:00 (月曜定休/祝休日の場合、翌平日・年末年始休)

鑑賞サポート

託児サービス
(有料・要予約)
【28日(土)11:00公演、12:30公演のみ】

対象:満1歳以上の未就学児
料金:1名につき1,000円(税込)
申込締切:2023年10月21日(土)まで
お申込み・問合せ:
 オフィス・パレット株式会社
 TEL 0120-353-528(携帯からは052-562-5005)
 月~金 9:00~17:00、土 9:00~12:00(日・祝日は休業)

鑑賞サポート 視覚に障がいがあるお客様へのサポート
・事前にプログラムのデータをEメールでお送りできます。
・10月29日(日)11:00公演の開演前に、視覚に障がいのあるお客さまを対象にした舞台の事前説明を行います。
ご希望の方は、前日までに 劇場事務局(問合せ先)までご連絡ください。

プロフィール

額田 大志 Masashi Nukata

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(c)YutaItagakiManaHiraki

演出家・作曲家・劇作家。 1992年東京都出身。作曲家、演出家。8人組バンド『東京塩麹』、演劇カンパニー『ヌトミック』を主宰。「上演とは何か」という問いをベースに、音楽のバックグラウンドを用いた脚本と演出で、パフォーミングアーツの枠組みを拡張していく作品を発表している。『それからの街』で第16回AAF戯曲賞大賞受賞。2022年に『ぼんやりブルース』で第66回岸田國士戯曲賞の最終候補にノミネート。自作のほか、Q/市原佐都子『バッコスの信女-ホルスタインの雌』などの舞台音楽も数多く手掛ける。

細井 美裕 Miyu Hosoi

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1993年愛知県岡崎市出身。マルチチャンネル音響をもちいたサウンドインスタレーションや、屋外インスタレーション、舞台公演、自身の声の多重録音を特徴とした作品制作を行う。これまでにNTT ICC無響室、山口情報芸術センター[YCAM]、東京芸術劇場、愛知県芸術劇場、国際音響学会AES、長野県立美術館、羽田空港などで展示。第23回文化庁メディア芸術祭アート部門新人賞受賞。

メッセージ/インタビュー

ゲスト:額田大志(ヌトミック主宰)
ゲスト:細井美裕(サウンドアーティスト)
インタビューアー:山本麦子(愛知県芸術劇場プロデューサー)


―このクリエイションの大きなコンセプトは「マルチチャンネルスピーカーと身体のための演劇作品」ということで、「マルチチャンネルスピーカー」「身体」「演劇」の3つが大きなキーワードですね。 まず伺いたいのが「演劇」に関してです。クリエイションの初めに話題になった部分でもありますね。その理由は、前回初めてお二人がタッグを組んで作品創作をした『波のような人』(2021年4月開催)を踏まえて今回の創作があるからだと思います。まずは細井さん、いかがでしょうか。

細井:私の演劇のイメージは、決められたことをやると思っていました。演劇について「バンドのメンバーの所作をコントロールしたい」という額田さんの言葉からイメージを持ったのもあります。前回の『波のような人』、今回のクリエイションと重ねてきて「コントロールする」よりも「偶然、意図していないものも含めて意図されたものとして見られるもの」だと実感しています。構造としては同じだけど、コントロールする側になって実感を持ったことです。
また、演劇の人のコミュニティーの強さや、劇場が目的地ではなく劇場の中にもう一個、別の世界が生まれる感覚を感じています。劇場の中の世界といっても狭いわけではなく、舞台上では現実世界よりも少ない要素で構成されている世界なので、自由に解釈できる部分が多く、毎度知らない土地に行くような感じです。

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2021年4月ヌトミック+細井美裕
マルチチャンネルスピーカーと俳優のための演劇作品『波のような人』©羽鳥直志

額田:僕の演劇観も変わってきたかもしれないです。初めは劇場で出演者の台詞や所作が緻密に制御されている作品を作っていたけど、野外演劇の上演や、市民参加の作品をつくった経験を経て、今は演劇は参加する人や場所に囚われずに、どこでも、誰とでもできると思い始めています。その代わり、今回改めて「劇場でやる」とはどういうことか、何ができるのか、どんな意味があるのか、を考え直しています。今回の創作で常に意識している部分ですね。

細井:普段はインスタレーションとして、人(出演者)がいない作品を作ってきたので、普段は見る側である人間が(インスタレーションの)スピーカーのような、つまり表現媒体になることはとても難しくて面白いです。スピーカーと人間が並ぶとやはり人間を見てしまうし、感覚的に強く入ってきますよね。人間というメディアの面白さでもあり、観客も人間であることを改めて実感しています。  また、今回のクリエイションを通して、インスタレーションには「創作側の押し付け」という側面もあると気づきました。インスタレーションはある程度観客側が時間の使い方や観方を自分で決められるから、作り手は作り手で、自分で表現方法や、タイムベースドメディアであればどれくらいの時間をかけて伝えるかを選ぶことができるともいえます。一方、舞台でのパフォーマンスは観客と時間や空間を共有する必要があるので、観客がいる空間でどうコミュニケーションが起こるか、どう見えるか、どう考えられるか、を観客の立場に立って考える必要がありますよね。つまり、パフォーマンスはコミュニケーションをより重視すると感じています。観客と直接話す意味ではなく、非言語で長いタイムラインのコミュニケーションとして、自分ではない身体について考える体験が興味深いです。

額田:一人で作品を観る体験と、みんなで作品を観る体験はかなり違うと思っているんですよね。人と観ていると「他の人はこんなところを面白く思うんだ」とか発見があったりします。作品と自分で完結する世界ではない、観客同士の間で起きる相互作用。今回の作品もじっと一緒に観る、同じ時間一緒に集中する、緊張感を共有して生まれるものがあると思います。演劇の面倒くさいところは基本的に同じ時間と場所に人が集まらないといけないこと。メディアの形態として今回の作品はインスタレーションに近いのかもしれない。

細井:演劇は一番、観に行かないと開けない最後のびっくり玉手箱のような感じです。評判も、良いと言う人も悪いと言う人もいて、野性の感覚に訴えてくる。レビューを見て行ってズレがあるときもありますよね。でも、聞いていた内容と自分が感じたことが違っていても受け入れられる。映画とは違って、舞台だとやっている人が目の前にいることも影響しているかもしれないですね。自分と合わないものに出会うこともありますが、「自分はこれが苦手なんだ」と分かることも重要だからそれで良い気もしています。

額田:演劇に限らず表現全般は「観方」の慣れが必要な気はします。ただ、演劇は音楽や映画に対して気軽に見比べ/聞き比べが中々できないから、慣れるまでにハードルが高い部分もあると思います。

細井:私の場合、こういうものを作っている、面白いと思っている人のことを分かりたい気持ちもあったから、演劇の観方を知りたいと思ったけど、教えることができるものではないことも分かります。

額田:ところで、演劇だと観客が会場に入ってからの部分はある程度演出家がコントロールできる部分だと思うんですけど、展示やインスタレーションだとキュレーターの方の影響もありそうですよね。細井さんの「Lenna」は一人で聞く作品なので入るところは暗くなる…など作品として完結しているけど、インスタレーションだと前後の展示の影響もあったりするよね?

細井:あります。一方で劇場は建物だけど、中身は毎回変わることを観客も分かって劇場に来ていることが面白いよね。(インスタレーションも)美術館に置いてある、つまり「設(しつら)え」が観客のモードを整える意味では劇場で起こっていることと似ているかもしれません。 私がいつかやりたい究極の作品は、作品のために建物から立てること。どうやって中に入って、どれくらいの人がいて…そこまで決められる作品を作ってみたいですね。

―クリエイションの中で細井さんが「観客」や「客席と舞台の関係」に演劇らしさを感じているとおっしゃったのが印象的でした。

細井:舞台と客席があれば演劇的なような気もします。コンサートホールの設計で、シューボックス型(舞台に客席が対峙する形)からワインヤード型(舞台を観客が取り囲む形)になって客席の社会性が生まれた、と聞いたことがあるけど、そういうことに近いのかも…?

―言葉を交わす/交わさないに限らず、客席の形状と社会性が繋がっていることは面白いですね。では、インスタレーションと演劇の違いで「人」について話が出てきたので「身体」についてもお話を伺っていきたいです。

細井:インスタレーションの前でパフォーマンスをやると身体に勝てないとは、観客側かパフォーマー側か誰が時間の主導権を握っているか、ということです。主導権がパフォーマー側にあるときに観客側は「見る」こと以外できなくなることを「勝てない」と表現しました。展示を見る時、作品をどれくらいの時間見るか、どんな観方をするか、は観客側が決めていると思うんですが、インスタレーションの前で人間がパフォーマンスを始めたら、時間の主導権が観客側からパフォーマー側に移ってしまう。人間が人間を見る状況で、その部分を変えるのはかなり難しいです。

額田: 確かに、視覚情報はとても強い。演劇で音楽を流しても、観客はやっぱり音楽を聴かずに出演者を見ていることがほとんど。今回はそれを分かった上で、音と出演者の抽象的な状態をできるだけ重ね合わせていこうと考えていて、演劇かインスタレーションかは観客にとっては重要ではないことですけど、結果的には演劇の作用が強く働く作品にしたいと思っています。「音」に対して、出演者の身体と交わることで見え方が変わる、聞こえ方が違う、ということを体現したいと思っていて、観客と設営されたインスタレーションだけではできない、身体を挟むことでできる表現をやってみたいと思っています。

―そこに今回の挑戦のテーマがあるわけですね。

額田:お互いが突き詰めているジャンルや、取り組んできたことの違いに遠慮し合わずに、得意なことを活かしてできることをしたいと思っています。何となく合わせにいくのではなくて、かといってコラボレーションだからと言って無理をするのでもなくて……これまで自分がやってきたことの100%を出し合って、一番良いものを選んでいきたいと思っています。

細井:自分が関わるならインスタレーションの要素も入れたいと思っています。演劇の強さに対して、音源を1つに絞ることで違和感をうまく使って、やっと強さのバランスが取れるくらいだと思い始めていて、稽古の中で「ノイズ」を試してみています。1つの音源に絞ることはサウンドアーティストとしてかなり勇気がいることですが、前回(『波のような人』)や実験(2022年12月に実施した【Theater Idioms】)、議論や稽古を重ねてきたから決断できたことです。
今回良いバランスで演劇に挑戦できているので、「やらないことをやる」と強い意志を持って挑戦したいと思っています。もちろん、現場でやることはいっぱいあるけど(笑)コンセプトのためだけではなく、稽古や議論を通してお互いに考えてきた中で、「これで行こう」と思えたこと、俳優とも共有できた瞬間が生まれたことが良かったと思っています。

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2022年12月に額田大志、細井美裕が行った舞台芸術創造セミナー「TheaterIdioms」の様子。小ホールの空間で見え方、聞こえ方についての実験を様々な形で行った。

額田:普段、「一人で作らない」ことが演劇の楽しいけど難しい部分だと思っています。出演者と細井さん、劇場とでまず1つ目の共有地が見つかって良かったと思っています。面白いと思える共通点を見つけることは、クリエイションの中で立ち返る点になるので、現時点の進みとしては良い感じです。複雑な音響システムを使用したものもいつかやってみたいけど、今回はかなりシンプルな面白さに特化する作品になりそうですね。

細井:これができれば、複雑なものを作ることは簡単になる気もするよね。

額田: 「演劇」が持つ、出演している人しか喋れない、簡単に場所を変えられないなどの制約のある中でかき回す面白さと、インスタレーションが持つ自由度の高さを考えると、実は両者の融合はかなり相性が悪い部分もあるのではないかと思っていて(笑)今回はそれをシンプル、かつそれぞれのパフォーマンスの抽象度をチューニングすることでクリアしようと考えています。

細井:このプロセスを経ていなかったらずっと「装飾としての音響」になってしまうと思うから、やっぱり、一回シンプルすることは必要だよね。まずは実感しよう。

―「ノイズ」に注目した理由は何ですか?

細井:実は、初めから音源として注目したわけではないんですよ。俳優の音、声や身体が出す音を消すマスキングとしてノイズを入れてみたら面白くて、あれにも聞こえる、これにも見える…となったんです。ノイズにはいろいろな音が入っていることに改めて気づき、これは使えるのではないかとなりました。

額田:ノイズはいろいろな使い方をされていますよね。ホワイトノイズはヒーリングで使われていたり、演劇の音響としてのノイズは雨やフラッシュバックの効果音として使われていたり、イメージが広がりやすい素材なので、より拡張していく意味で面白そうだと思っています。
余談ですが、最近『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』をやっていて、シンプルなアイテムや能力を組み合わせていくところがちょっと似てるなと思ったり(笑)シンプルだから何と何を組み合わせるかでいくらでも楽しめる。発想はシンプルでも見え方が変われば面白いんだと確信が持てました

―このあたり、今回の創作にかなり重要なポイントのような気がしますね。

―最後に、大きな要素である「マルチチャンネルスピーカー」について、スピーカーが沢山あっていろいろなところから音が聞こえて…という漠然としたイメージがあると思いますが、そのあたり、細井さんに伺ってみたいです。

細井:「マルチチャンネル」というと、期待される部分もあると思いますが、マルチチャンネルそのものがコンテンツになってしまっている。何を表現したいかが重要なのに、忘れられがちな気がするところが問題だと思っています。それだと、マルチチャンネルというコンテンツが飽きられたら終わりになってしまう。
私は合唱からキャリアをスタートしたので、音源が沢山ある環境を一人で作ることを考えたら、それがマルチチャンネルだっただけなんです。でもやればやるほど「マルチチャンネル」はコンテンツとして期待される部分がある、そこに切り込んでいきたいとずっと思っていました。
マルチチャンネルと聞くとスピーカーが沢山あるイメージがあると思いますが、それは視覚的な強さに引っ張られているともいえます。それはすぐ飽きられるし、人(パフォーマー)が入ってきたらそちらに目がいっちゃうくらい実は弱いものです。
今回、スピーカーが持っていた特権を剥ぎ取りたいと思っているんです。スピーカーだから動かない、スピーカーだからいろいろな音が出せるといった日常で触れるスピーカーの暗黙知を壊したい。たとえば、俳優だったら日常で会う人と舞台上にいる人は違うと認識されますよね。そこで、「非日常のスピーカーとは」を考えるためにどうしたら良いか考えています。スピーカーの手前、鳴らす前のいろいろ、音源の作りこみとか、生でマイクを使って喋るとか…音源とスピーカーが離れてしまうと、とたんに音を鳴らすだけの箱、いつものスピーカーになってしまう。いかに舞台上に裸のままスピーカーを放り出せるか、普段見ないもの、無視しているもの、思い込んでいるものを剥がすのかの挑戦です。

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「TheaterIdioms」の実験での一コマ。籠の中にワイヤレススピーカーが入っている。

―額田さんはマルチチャンネルスピーカーでこういうことをしてみたい、と想いがあるのでしょうか?

額田:うーん……

細井:それくらいが良い(笑)無意識に刷り込まれているものを剥ぎ取りたいので、そこ(マルチチャンネル)に想いを持っていないくらいが良いと思っています。

額田:マルチチャンネルに強い興味があるというより、バックグラウンドが異なる細井さんと出演者と一緒に作ることが面白いと思っています。
今、音響的に興味があることは、音楽は誰が流していて、誰のために流れているかです。たとえば、テレビドラマや映画では見る人が共感するために音楽は流れることが多く、効果としてはわかりやすいと思います。一方で演劇だと目の前に人がいてそこに音楽が流れる。つまり、「目の前の空間」と「観客が聞こえる音楽」という二重の意味を持っていて、それがどんな時に両立するか、どうしたら成立するのか、が面白いと思っています。今回はシンプルな1つの音源(ノイズ)なので、なぜ流れているのか、誰が流しているのか、何のために流れているのか、同じ音の中で推移していくことが面白いし、それが出演者によって起こされるのが面白いことになると思います。

―それを受け止めて想像する観客とのコミュニケーションという部分もありそうですね。

細井:前回(『波のような人』)できなかった、誰が欠けてもできない、ということが今回実現できると思います。音がずっと流れている中で、俳優がダイナミクスを作り出す、どちらが欠けても成立しない。

額田:まだ辛さと楽しさが両方ある感じですが、出演者もやるべきことがはっきりしている気がします。ヌトミックはカンパニー的にもいろいろと変わっている時期でもあるし、2年前の作品に対してもっと何かできたのではないかという思いもある中で、同じ方向に進んでいけそうなクリエイションだと思います。

細井:この作品はシリーズ化できたら!シンプルなだけに、構造は同じでも、やる人が違ったり音源が変わったりしたら変わる、広がりがある気がしています。

額田:今まさにテキストを作っていますが、自分が初めに書いた作品(『それからの街』)に近いものになるかもしれないという気もしています。使っているモチーフ、手法…いろいろやってきて、原点回帰したというか…。シンプルに1つの音源でやると決めたことと呼応するような、作家としていろいろ巡ってやっぱりここに辿り着いた感触があります。もちろん、当時よりももっとブラッシュアップされていると思うので、昔から見ている方も楽しんでいただけたら嬉しいです。

2023年7月8日取材