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ホフェッシュ・シェクター 話題作『Theatre of Dreams 』を引っ提げ、いよいよ来日(インタビュー)
2026.10.09

Photo.David Rose
イギリスを拠点に活動する世界的振付家のホフェッシュ・シェクターによる話題作が日本に初上陸。幻想と現実の境界が溶け合う、鮮烈でスリリングな 「夢の劇場」。創作の源泉やその過程、芸術観をシェクター本人に聞いた。
取材・文=上野房子(ダンス評論家)
圧倒的なエネルギーのなかに渦巻く不穏、果ては共同体の一体感や祝祭性をも描き出す『Theatre of Dreams』。シェクターを創作へと突き動かしたインスピレーションの源泉は何だったのだろうか。
「幻想と現実のあいだにある隔たりを見つめることが、創作の第一歩でした。私たちが自分自身や他者について語る物語、あるいは物事に与える意味づけ、いわゆるナラティブと、実際に起きている出来事とのあいだにはズレがある。ところが、実際に起きていることを見る目は、すでに社会や文化のなかでかたちづくられている。何を美しいとみなし、何を詩的と感じ、何を善悪とするのか、私たちはすでに学習している。では『実際に起きていること』は、何なのか。この問いに、私は強く惹きつけられたのです」
本作のタイトルには、「夢」と「劇場」という詩的な言葉が冠されている。
「私たちは人生のなかで夢を見ている存在なのかもしれません。人生とは、私たちより前に生きた人々によって築かれた劇場のようなものです。私たちはそこに生まれ落ち、数字の書かれた紙片を"お金"として扱い、誰が友で誰が敵か、善と悪、美と醜の区別さえも、教えられていきます」
彼の思索は、やがて身体を使った行為につながっていく。
「ダンスは、幻想と現実のあいだにある緊張を最も鋭敏に感じ取る場だと思います。共同的な体験であり、夢のように人を引き込みながら、同時にきわめて生々しく、現実そのものでもある。身体によって行われ、人間の生の最も原初的な要素に触れるものです」
コラボレーターとの共同作業についても話はおよんだ。
「創作のプロセスは、混沌と直感が入り混じる連想ゲームのようなものです。コラボレーターたちとアイデアを交わし、構築と即興を行き来しながら、空間や動き、音をかたちにしていきました。照明デザインのトム・ヴィッサーは長年の共作者で、互いの領域を理解し合っています。彼は私の世界に深く入り込みながらも、自分の声を失いません。衣裳デザインのオスナット・ケルナーとも何度か仕事をしていますが、そのデザインには予測不能な驚きがあります」

Photo.Tom Visser
シェクターは本作の振付に加えて、音楽も自ら手がけている。
「音楽は、私にとって芸術との最初の接点でした。6歳のときにピアノを習い始め、さまざまなレコードをよく聴いていました。音楽は私の生活の大きな部分を占めていて、ピアノでちょっとした旋律をつくり、別の世界に入っていくような体験もしていました。一時期、ダンサーとして踊った後、21歳のときにドラムを学び始め、次第に、自分でも音楽をつくりたいという気持ちが募りました。ダンスの創作を始めるにあたり、迷いはありませんでした。作品の気配を立ち上げ、その世界をかたちづくる音楽は、創作に不可欠な要素なのだと。
『Theatre of Dreams』では、渦を巻くような世界、絶えず変化し続けるサウンドトラックのなかへと入り込んでいく感覚をつくろうと思いました。夢のなかのように、ある場所から別の場所に投げ出され、そこに至る経緯さえ思い出せなくなるような状態。そこでは自分という意識を忘れ、感覚や感情の流れそのものになる。圧倒的で力強い体験です」
シェクター作品を観たことのある人なら、あの不思議な没入感を味わったことがあるだろう。自分と他者、観客とパフォーマーの境界が揺らぎ、観る者はいつしか作品世界へと引き込まれていく。それは、シェクターの芸術観にも通じるものだという。
「私にとって芸術とは、人と人がつながる場を生み出すこと、そこに集う人たちがともに生きているという感覚を分かち合うことです。パフォーマンスという営みは、昔ながらの儀式のようなもので、千人もの人々が集い、ダンサーや音楽家は神官さながらに場を高め、感情やナラティブを共有する。観客もまた、その場の参加者となるのです。私はダンサーたちに、"演じる"のではなく"体験する"ことを求めます。体験が十分に深まると、その感覚は伝播し、親密なものとなり、観る側も同じ感覚を共有し始めるのです」

Photo.Tom Visser
前回の日本公演から7年、かつてない速度で激動し続ける世界情勢は、シェクターの創作アプローチに影響を与えているのだろうか。
「痛ましいほどに断片化した世界のなかで、政治やナラティブはあまりに強大で、人を惑わし、人間性を惨めに裏切っている。芸術には人々に、ともに集まることやつながることがどのような感覚なのか、そしてそれがどれほど大きな力になり得るものなのかを思い出させる働きがある。私は、その働きがこれまで以上に重要だと感じています。
『Theatre of Dreams』は、社会で語られる既存のナラティブにとらわれず、心の内なる領域を守るための呼びかけです。目の前の人々と向き合い、自分たちの選択を問い直すことでもあります。私たちは優しさをもっているか、誰かを傷つけていないか?」
彼の思索が生み出す問いを劇場で受け止め、ともに体験したい。
ホフェッシュ・シェクター・カンパニー
『Theatre of Dreams』
2026年10月16日(金)13:30開演
17日(土)15:00開演
愛知県芸術劇場 大ホール
公演情報 https://www-stage.aac.pref.aichi.jp/event/detail/20261016hofesh.html
<埼玉公演>
2026年10月23日(金)19:30開演
24日(土)14:00開演
25日(日)14:00開演
彩の国さいたま芸術劇場 大ホール