自主事業:ミニセレ

DaBY ダンスプロジェクト 鈴木竜 × 大巻伸嗣 × evala『Rain』

サマセット・モームによる短編小説『雨』から着想を得て創作する『Rain』
主演に新国立劇場バレエ団プリンシパルの米沢唯を迎え、美術 大巻伸嗣と音楽 evalaら、ジャンルを超えた気鋭のアーティストとDaBYの若手ダンサーが挑む最新作

DaBYダンスプロジェクトは、日本のダンス界をリードしてきた愛知県芸術劇場が、グローバルに活躍するダンスアーティストを養成するダンスハウスDance Base Yokohama(DaBY)と連携して開催するダンスシリーズです。今回は、愛知県出身の米沢唯とDaBYレジデンスダンサーらが参加し、初のフルイブニング作品に臨みます。

ご来場される皆さまへのお知らせとお願い(2023/3/10)

開場中、ホワイエにて大巻伸嗣(美術)によるドローイングなどをご鑑賞いただけます。

開演後のご入場はお待ちいただく場合がございますので、時間に余裕をもってご来場ください。
なお、3月12日(日)は「名古屋ウィメンズマラソン2023」開催に伴い、愛知県芸術劇場周辺で交通規制が行われますので、ご注意ください。
▼名古屋ウィメンズマラソン2023ウェブサイト「交通規制のお知らせ」
https://marathon-festival.com/pdf/2023/traffic_control.pdf

チケットは、各日開演直前までDaBY Peatixにて販売しております。会場窓口での販売はございません。
※前後との段差がないフラット席です。舞台の一部が見えづらい可能性がございますので、予めご了承ください。

ご来場前に「愛知県芸術劇場主催公演にご来場される皆さまへのお知らせとお願い(新型コロナウイルス感染症関連)」をご覧ください。

概要

公演日時 2023年3月11日(土)14:00開演
2023年3月12日(日)14:00開演

※ 開場は開演の30分前

会 場 愛知県芸術劇場 小ホール
出演者・スタッフ

原作:サマセット・モーム『雨』

演出・振付:鈴木竜
美術:大巻伸嗣
音楽:evala

出演:米沢唯(新国立劇場バレエ団プリンシパル)
吉﨑裕哉 、木ノ内乃々*、土本花*、戸田祈*、畠中真濃*、牧野李砂*、Ikuma Murakami*、堀川七菜(アンダーキャスト)*

* DaBYレジデンスダンサー

チケット料金

全席自由
一般 5,000円 U25 3,000円(枚数限定)

※ U25は公演日に25歳以下対象(要証明書)。
※ 車椅子でご来場の場合は 劇場事務局 までご連絡ください。
※ 3歳以下入場不可。3/12(日)のみ 託児サービス あり(有料・要事前予約)。
※ 開演後のご入場はお待ちいただく場合があります。
※ やむを得ない事情により、内容・出演者等が変更になる場合があります。

チケット取扱

チケット発売 2023年1月13日(金) 10:00~

愛知県芸術劇場オンラインチケットサービス【予定枚数終了】

愛知県芸術劇場メンバーズへの登録が必要です。詳細はこちら

愛知芸術文化センタープレイガイド(地下2階)【予定枚数終了】

TEL 052-972-0430

平日10:00-19:00 土日祝休10:00-18:00(月曜定休/祝休日の場合、翌平日・年末年始休12/28-1/3)

DaBY Peatix

https://dancebaseyokohama.peatix.com/

※購入方法により、チケット代金のほかに手数料が必要になる場合があります。

託児サービス
(要予約)

【3月12日(日)公演のみ】
対象:満1歳以上の未就学児
料金:1名につき1,000円(税込)
申込締切:2023年3月4日(土)
託児お申込み:オフィス・パレット(株)

TEL 0120-353-528(携帯からは052-562-5005)
月~金 9:00~17:00、土 9:00~12:00(日・祝日は休業)

制作 Dance Base Yokohama
お問合せ Dance Base Yokohama

Email: contact△dancebase.yokohama(「△」を「@」に置き変えてください。)
https://dancebase.yokohama/

愛知県芸術劇場

TEL: 052-211-7552(10:00~18:00) FAX: 052-971-5541
Email: contact△aaf.or.jp(「△」を「@」に置き変えてください。)

主催・企画・共同制作 愛知県芸術劇場、Dance Base Yokohama

プロフィール

【振付】鈴木竜 Ryu Suzuki

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(c)Takayuki Abe

Dance Base Yokohama アソシエイトコレオグラファー。 横浜に生まれ、英国ランベール・スクールで学ぶ。これまでにアクラム・カーン、シディ・ラルビ・シェルカウイ、フィリップ・デュクフレ、インバル・ピント/アブシャロム・ポラック、エラ・ホチルド、平山素子、近藤良平、小㞍健太など国内外の作家による作品に多数出演。振付家としても横浜ダンスコレクション2017コンペティションⅠで「若手振付家のためのフランス大使館賞」などを史上初のトリプル受賞するなど大きな注目を集めており、作品は国内外で多数上演されている。
DaBYでは、2020年度にはDaBYコレクティブダンスプロジェクトに取り組む。また2021年に『When will we ever learn?』『never thought it would』『Proxy』を創作し、愛知県芸術劇場にて初演、 KAAT神奈川芸術劇場にて再演。2022年度には国内外での再演を予定している。

【美術】大巻伸嗣 Shinji Ohmaki

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(c)paul barbera _ where they create

岐阜県出身。「存在」とは何かをテーマに制作活動を展開する。環境や他者といった外界と、記憶や意識などの内界、その境界である身体の関係性を探り、三者の間で揺れ動く、曖昧で捉えどころのない「存在」に迫るための身体的時空間の創出を試みる。
主な個展に、「存在のざわめき」(関渡美術館/台北,2020)、「まなざしのゆくえ」(ちひろ美術館, 2018)、「Liminal Air Fluctuation - existence」(Hermèsセーヴル店/パリ,2015)、「MOMENT AND ETERNITY」(Third Floor-Hermes/シンガポール,2012)、「存在の証明」(箱根彫刻の森美術館,2012)、「ECHOES - INFINITY」(資生堂ギャラリー,2005)。あいちトリエンナーレ(2016)、越後妻有アートトリエンナーレ(2014~)、アジアンパシフィックトリエンナーレ(2009)、横浜トリエンナーレ(2008)などの国際展にも多数参加。近年は、「freeplus × HEBE × ShinjiOhmaki」 (興業太古匯/上海,2019)、横浜ダンスコレクション「Futuristic Space」(横浜赤レンガ倉庫,2019)、「Louis Vuitton 2016-17 FW PARIS MEN'S COLLECTION」(アンドレシトロエン公園/パリ,2016)などでも作品を発表する。

【音楽】evala

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(c)Susumu Kunisaki

音楽家、サウンドアーティスト。新たな聴覚体験を創出するプロジェクト「See by Your Ears」主宰。立体音響システムを駆使し、独自の“空間的作曲”によって先鋭的な作品を国内外で発表。近作として、2020年に完全な暗闇の中で体験する音だけの映画、インビジブル・シネマ『Sea, See, She - まだ見ぬ君へ』を世界初上映し、第24回文化庁メディア芸術祭アート部門優秀賞受賞。2021年1月にリリースした空間音響アルバム『聴象発景 in Rittor Base – HPL ver』が、国際賞プリ・アルスエレクトロニカ2021 Digital Musics & Sound Art部門において栄誉賞受賞。

【出演】米沢唯 Yui Yonezawa

yuiyonezawa_dabydanceproject2023.jpg
(c)Kenji Azumi

愛知県出身。2010年にソリストとして新国立劇場バレエ団に入団。
2011年ビントレー『パゴダの王子』で主役デビュー。2013年プリンシパルに昇格。2004年ヴァルナ国際バレエコンクールジュニア部門金賞、2006年ジャクソン国際バレエコンクールシニア部門銅賞など。2014年中川鋭之助賞、2017年芸術選奨文部科学大臣新人賞、2018年舞踊批評家協会新人賞、2019年愛知県芸術文化選奨文化賞、2020年芸術選奨文部科学大臣賞、橘秋子賞優秀賞受賞。
愛知県芸術劇場の自主事業にも多数参加している。うち、劇場プロデュース作品としては、2004年ダンスオペラ2『青ひげ公の城』、『戸外にて』(振付:アレッシオ・シルヴェストリン)、2005年ダンスオペラ3『UZME』(振付:笠井叡)、2005年「あいちダンスフェスティバル」にて大島早紀子作品『ユークロニア』にクリエイションから参加して、初演に出演している。

ニュース

2023.3.9

鑑賞&レビュー講座2022」受講生執筆記事

鈴木竜氏インタビュー

赤羽美和

愛知県芸術劇場 × Dance Base Yokohama(DaBY)『Rain』が2023年3月11日(土)・12日(日)に、愛知県芸術劇場小ホールにて上演される。1921年に発表された、イギリスの小説家・劇作家サマセット・モームの傑作短編小説『雨』から着想を得て、DaBYアソシエイトコレオグラファーである鈴木竜が演出・振付を手がけ、現代美術作家の大巻伸嗣が舞台美術、evalaが作曲と音響システムを含めた総合的サウンドディレクションを担う。主演には新国立劇場バレエ団プリンシパルの米沢唯を迎え、ジャンルを超えた気鋭のアーティスト達の共創が注目される。鈴木にとって初の長尺、フルイブニング作品となる。

「湿気」。原作から強く受けたインスピレーションを鈴木はそう語る。「抑圧、傲慢、人間関係…生きる上での困難は様々にありますが、それらはすべて目には見えない。原作で描かれる状況や、『雨』から受ける“湿度”もまた、目に見えないものです」。

「目に見えないもの」を可視化するうえで、重要な要素の一つが舞台美術だ。鈴木と大巻は対話を重ね、大巻はオンラインで実際のダンサー達の動きを見ながらドローイングを行ったという。色々なアイデアを検討した結果、大巻が2012年に発表した『Liminal Air - Black Weight』がベースに据えられた。この作品は、天井から大量に垂らされた黒い紐が形作る黒い直方体状の空間であり、“影を物質として捉えること”を試み、空間における影(黒)の質量と空間との関係を可視化することで、鑑賞者が圧力や重力を体験する作品である。なお『Rain』の創作過程で大巻が描いたドローイングはチラシの裏面を飾っている。

鈴木にとって、宙に浮く・触れられる舞台美術は初めての試みとなる。「舞台美術や音楽、照明は空間を作る作業であり、環境を整備し、身体性が立ち上がるもの。いかに身体性を感じられる空間を作り上げるかについて意識しています」。美術、音楽、振付の融合が可視化する「湿気」とはどのようなものか。その湿気を帯びた舞台で、観客は何を目撃するのだろう?

鈴木竜氏インタビュー

冨士本 学

愛知県芸術劇場 × Dance Base Yokohama(DaBY)『Rain』が3月11日・12日に愛知県芸術劇場小ホールで世界初演を迎える。ダンサーとしても国際的に活躍する鈴木竜が、フルレングスのダンス作品の演出・振付に初挑戦する。

原作は、英国の劇作家・小説家のサマセット・モームが1921年に発表した短編『雨』。航海の途上、雨が降りしきる南洋の小島で検疫のため滞在を余儀なくされた乗客らの人間模様を、緊張感を湛えた筆致で綴った名作だ。

鈴木はインタビューに答えて、原作に充満する“湿気”が演出の鍵だと明かした。
「モームの『雨』には、差別やジェンダー、感染症、信仰など、現代社会と重なる要素が多く含まれています。傲慢や抑圧からくる生きづらさは、そこに確かにあるけれど目には見えない“湿気”のようなもの。この“湿気”をいかに可視化するかを意識しています。」
鈴木と共に“湿気”の可視化に挑むのは、大巻伸嗣(美術)とevala(音楽)。どちらも鑑賞者の体感に訴える空間的な作品が特徴だ。刺激的な鑑賞体験への期待が募る。

さらに鈴木は、モーム作品全体に通底する人間観に迫りたいと意気込む。
「不道徳な存在として登場する娼婦トムソンに、強く自由な意志を持つ人間に対するモーム自身の憧れが表れていると思います。モームは生涯を通じて自由意志を探究した人。ただ物語をなぞるのではなく、その中に込められた言葉にならない情動を身体で表現したい。」

『Rain』でトムソンを演じるのは、新国立劇場バレエ団プリンシパルで愛知県出身の米沢唯。2020年に主演した同バレエ団『マノン』では、蠱惑的かつ無垢な女性像を見事に表現し、好評を博した。今回、米沢の卓越した身体性や人物造形に加え、初となる吉﨑裕哉やDaBYの若手ダンサー6人との共演にも注目だ。

ジャンルを超えたアーティストの協働を通じ、モームの描いた世界が100年以上の時を経て我々に何を問いかけるのか。幕開きを待ちたい。

2023.3.9

朝日新聞デジタル:プリンシパル米沢唯、あざを作りながら挑むコンテンポラリーダンス

https://www.asahi.com/articles/ASR386D2CR36UCVL031.html

2023.2.20

美術手帖:舞台美術は大巻伸嗣、サウンドディレクションはevala。愛知県芸術劇場×Dance Base Yokohamaの『Rain』が上演

https://bijutsutecho.com/magazine/news/headline/26787

2022.3.30

ステージナタリー:唐津絵理と山本麦子が語る、“実験と出会いの場”としての愛知県芸術劇場「ミニセレ2022」

https://natalie.mu/stage/pp/minisele2022

2022.3.13

ステージナタリー:鈴木竜と大巻伸嗣のタッグで立ち上げる「Rain」、出演に米沢唯

https://natalie.mu/stage/news/469216

レビュー

鑑賞&レビュー講座2022参加者によるレビュー

鑑賞公演:2023年3月11日(土)『Rain』愛知県芸術劇場 小ホール

愛知県芸術劇場では舞台芸術を言葉で紡ぎ、レビューを執筆することも舞台と観客とのコミュニケーションの一つと考えています。
以下の作品は、オンライン講座、アーテイストへのインタビュー、レビュー執筆、講師アドバイス、推敲を経て、完成した2022年度修了作品です。

 

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©Naoshi Hatori

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©Naoshi Hatori

愛知県芸術劇場×Dance Base Yokohama(略称:DaBY)『Rain』が2023年3月、世界初演を迎えた。1921年に発表されたモームの傑作短編小説『雨』に着想を得て、鈴木竜が演出・振付を手掛け、美術を大巻伸嗣、音楽をevalaが担い、主演を務める米沢唯らダンサーらと共に、舞踊と美術と音楽の三位一体で「目に見えないもの」の可視化に焦点を当て、身体性が立ち上がる空間表現を作り上げた。

人間の傲慢さや抑圧、閉塞感など「目に見えないもの」が“湿気”のごとく充満する原作。開演前のホワイエから、その“湿気”が観客にまとわりつく。黒いスーツのダンサーらのパフォーマンスは場の華やぎに落ちた墨汁の染みのようで心をざわつかせた。

舞台は漆黒に覆われ、中央に天井から大量に垂れる黒い紐で形作られた直方体が浮かぶ。それは客席と舞台を御簾のように隔てるが、照明が奥行きを浮かび立たせ、観客の関心を奥へと誘う。ダンサーは紐の束を身体でかき分け、掴まったり絡まったりと、身体と美術がリアルに対峙する踊りを強いられ、会場全体に緊迫感を生む。紐と床の隙間を屈んだり這うような振付は、黒色に質量を感じさせた。大巻が舞台美術を「もうひとりの演者」と語るように、舞台に浮かぶ黒い箱はどこか生命感を宿したかのようだった。それは理性の森か、本能の雨か、人間の深淵だろうか。

舞踊と美術の視覚的体験に加え、evalaによる音楽が作品の身体性をさらに昇華させた。立体音響によって皮膚感覚にまで訴える抽象的な音の連なりは、激しい雨音のようにも、人の話し声のようにも響き、登場人物の閉塞感が観客にも這い寄る。

黒い空間に、白いワンピース姿で、圧倒的な異物感を放ち、娼婦トムソンを演じた米沢唯は、歩く脚だけで妖艶な雰囲気を漂わせ、一瞬で場を支配する。バレエダンサーの身体的特異性が放つ幅広い表現語彙に驚嘆した。

最後に米沢が衣裳を脱ぎ捨てたのは、鈴木が作品のもう一つのキーワードとして挙げた「自由意志」へのひとつの解だろうか。善を体現する宣教師や人々は黒に身を包み、邪悪を象徴する娼婦は白を纏う。大きな黒に対峙する白、それを裂いた肌の色。舞台上の色が思考を促し、イメージの固執、固定観念への囚われを突きつけられた思いがした。物事には単純な二項対立はありえず、絶えず揺らぎ続ける。トムソンの肌の色が露出した様は、黒か白かではなく、ただのひとりの人間でありたい、という意志の顕れのようであった。

本公演は、すでに23年夏に3都市でのツアーが決定している。100年を超えて読み継がれる原作が、現代を生きる私たちを照らすものとは何だろうか。さらなる深化に期待したい。

赤羽美和(鑑賞&レビュー講座2022修了生)

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©Naoshi Hatori

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©Naoshi Hatori

サマセット・モームの古典的名作が、舞踊となって現代に蘇った。演出・振付はDaBY(Dance Base Yokohama)のアソシエイトコレオグラファーである鈴木竜。他にも美術を大巻伸嗣、音楽をevalaが務め、ダンサーには新国立劇場バレエ団の米沢唯ほか、DaBYのレジデンスダンサーを始めとした面々が名を連ねる。

『Rain』の魅力は原作である『雨』の物語を超えて、モームが描いていた自由意識というテーマに思いを馳せている点だろう。今回鈴木は、『雨』の行間にある葛藤や心情をこそダンス化したように見える。鈴木は“彼(モーム)が描くキャラクターたちの言動の端々からは、「自律した存在でありたい」という自己決定への微かな希望を感じるのです”とパンフレットで語っている。このようなモーム的なテーマを描くためにはキャラクターの心理からアプローチする必要があったのだろう。

冒頭、黒いスーツを着た人々が舞台上に現れ、統制されたダンスを踊る。その舞は、どこか現実にもある同調圧力を想起させ息苦しい。それをかき乱す存在として現れるのが、米沢唯演じる娼婦だ。バレエを踊り、白いドレスを着飾った彼女は、全く異質な存在として舞台上に君臨する。彼女はその踊りを通して、他のダンサーの踊りを変化させていく。時には照明を手に持ち他のダンサーの人間的な部分を「照射」する。それにつれてスーツを着ていた人々は、スーツを脱ぎ、ダンスも野生的で激しいものへと変化していくのだ。

ダンスはどんどんダイナミックになっていき、神話的な領域にまで至る。照明も後光がさしているようだ。そしてその舞が静まり返った時、舞台は薄暗くなり、娼婦はドレスを脱ぐ。彼女の最後の行動はいったい何を意味するのだろうか?人間の本質を照射しけしかけた彼女もまた人間だったということか、はたまた彼女が自分の本質に気づいたことで自律したというシーンなのだろうか?どちらにせよ、例えば自身の欲求を放棄して他者や社会に適応するのが美徳とされるなど、自律や実存を得られにくい現代を批評的な視点で見つめ、我々に思考を促す一作であることは間違いない。

また鈴木は“「目に映らないけどそこに存在するもの」を描くことも、『Rain』の大きなテーマだった”とインタビューで語っている。作中でそれが成功しているのは言うまでもないが、特記しておきたいのは公演前だ。ホワイエの床には公演に関連したカードが撒かれており、これから『Rain』に出演するダンサーの何人かがパフォーマンスをしていたのだ。それによって、普通であれば舞台から切り離された場所であるホワイエが異化され可視化できないが間違いなく空気感の変化があった。これも『Rain』のテーマと通じるものであろう。

加藤準一(鑑賞&レビュー講座2022修了生)

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ホールに入ると黒い立方体が舞台の中空に浮かんでいるのが見えた。その下には人が入れるくらいのスペースが空けられている。これは中身の詰まったものではなく、大量の黒く細い帯が垂れ下がりその形が作られている。照明のともっていない暗い舞台に浮かぶそれは輪郭が曖昧で、その存在感とは反対に実体をもたないように感じられた。舞台が始まると風のうなるような音が次第に大きくなっていった。

黒い上下のタイトな衣裳をつけたDaBYレジデンスダンサーらと吉﨑裕哉のダンス、本作の着想となったモームの小説 『雨』の冒頭の二組の夫妻のやりとり思わせる湿気の体感をモチーフとした振付の後に米沢唯が登場する。衣裳は短い丈のラフな白いドレス。舞台床面の間際に降りてきた黒い立方体の前で、その垂れ下がった細い帯を撫でたりと妖しげな雰囲気を漂わせながら気ままに動く。アラベスクの動きもありバレエを思わせるものだ。次の瞬間、その立方体から腕が一斉に出てきて米沢の周りを取り囲む。この腕が誰のものなのかは立方体に隠されてわからない。最初、それに戯れていた米沢は、だんだんと強くなる腕の力に身を翻させられ、そのうちに複数の腕に自分の体ごと預けてく。上半身だけ立方体から飛び出した状態でリフトされた米沢は、重力を無視して頭をこちらにむけたまま飛び上がっているように見えた。

演出・振付を担当する鈴木竜は公演前のインタビューで、「この舞台で彼のテーマである自由意志というものを表現できたら」と語っていた。ひとり皆と違う衣裳で気ままに踊る米沢はモームの『雨』に登場するミス・トムソンであり、黒い立方体から出てきた不特定多数の腕に操られるようになっていく姿は、意志を持ちつつも目に見えないものに翻弄される人の姿のように思われた。

モーム の『雨』には、島の住民たちのダンスが不道徳であるとして宣教師夫妻がそれを撲滅した話が語られる場面がある。そのダンスは、終盤のDaBYレジデンスダンサー達が妖しげな踊りをするシーンで表現されていたように思われる。彼らの顔を照らす炎のように僅かに揺れるオレンジの照明。彼らの衣裳はさっきまでと違い、カーキに近い色の腿の丈のパンツにシャツといった簡素なものだ。踊っているうちに彼らは体を求めるように絡まり、一塊になってうごめく。そこから生まれつつあるかのように、いつのまにかトムソンが何度も顔を出すようになる。

ラストシーンは登場人物全員が黒い立方体の中に入り、うっすらと客席を見つめていることがわかる。皆がたたずむなか、トムソンはひとりドレスを脱ぎ、彼女を取り巻く彼らと同じ裸体に近い姿になって終わる。

もし、ラストシーンだけ切り取ったのであれば、自ら客席を見つめドレスを脱ぐ姿には彼女の確固とした意志を感じるかもしれない。だが彼女は肉体が絡み合うダンスの中から生まれたことを忘れてはいけない。あのダンスを立方体から出てきた不特定多数の腕のようにみるか、それとも人の素朴な生殖行為としてみるかによってあのシーンの捉え方は変わるだろうと思う。それは観客に委ねられているのかもしれない。

北直人(鑑賞&レビュー講座2022修了生)

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2023年3月11日(土)、愛知県芸術劇場×Dance Base Yokohama『Rain』が、愛知県芸術劇場小ホールで上演された。演出・振付はDaBYアソシエイトコレオグラファーの鈴木竜、美術は現代美術作家の大巻伸嗣、音楽をサウンド・アーティストのevalaが担当し、主演に新国立劇場バレエ団プリンシパルの米沢唯を迎え、元Noismの吉﨑裕哉、若きDaBYレジデンスダンサーらと共に世界初演に挑んだ。

『Rain』は、サマセット・モームの短編小説『雨』に着想を得ている。鈴木は、この物語に漂う「湿気」のような目に見えない、言葉で言い表せないものをダンスによって可視化したい、と事前インタビューで語っていた。

会場に入ると、美術を担当した大巻によるダンサーのデッサンが何枚もホワイエの床に散らばり、出演するダンサーが至る所でポーズをとりながら、舞台に向かって少しずつ移動している。ダンサーたちがステージ上に集結したときに何かが始まる・・・そんなわくわくする時間を開演前から提供していた。

ダンスは薄暗い照明の漆黒の空間から始まった、というより「生まれていった」という方が適切か。お互い大胆に絡み合うハードな動きが、熱帯夜に身もだえる人間の姿を妖艶に伝えた。

無数の黒い紐を天井から垂らした直方体のインスタレーションが素晴らしい。米沢のバレエを基調にした動きと、アンサンブルの動きが、このインスタレーションを介してシンクロし、独特な表現に昇華されていく。時に黒い紐は透過性の高いカーテンのようにもなり、絡み合うダンサーのシルエットを浮き彫りにした。また、直方体の中に入って踊ることで、米沢とダンサーの上半身は隠れ、脚のみがクローズアップされ「脚で語る」奔放な動きの面白さを印象づける場面となっていた。直方体の中からアンサンブルが腕だけを出し米沢を抱えるシーンは圧巻。雨の効果音は一切使わず、喧噪や轟音をミックスさせて熱帯のじめじめした雰囲気を創り出したサウンドデザインと、まさに「ダンス・美術・音楽の三位一体」の世界を創り出した。

米沢の魅惑的な動きが、吉﨑との硬質なデュエットを経て、アンサンブルとの統制のとれた動きでクライマックスを彩る。最後は全員が中央に集まり、正面を静かに見据える。おもむろに衣裳を一枚脱ぎ捨てる米沢。湿度の高さ、暑さをしのぐ姿なのか、そこで起こった陰鬱な出来事から逃れようとする姿なのか、その行為に、鈴木の語る「湿気」を象徴するものを見た気がした。高度な表現力に圧倒される中で、改めて「小説(ストーリー)を身体で表現する」ことの有り様を考えさせられた。作品はブラッシュアップされ、今夏に再演される。楽しみに待ちたい。

小町谷聖(鑑賞&レビュー講座2022修了生)

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愛知県芸術劇場とDance Base Yokohama(略称DaBY)が共同で製作した『Rain』は、サマセット・モームの小説『雨』(1921)を原作にしたダンスだ。ダンサーに新国立劇場バレエ団プリンシパル米沢唯、元Noismの吉﨑裕哉、DaBYレジデンスダンサー6人を迎え、演出・振付に鈴木竜、美術は大巻伸嗣。そして、音楽にevalaという気鋭のアーティストたちによって、小説はダンスへと生まれ変わった。

鈴木竜は、モームが様々な著書で示す「自由意志は存在するのか」という問いに身体で挑むとプログラム・ノートで述べている。『雨』は、伝染病の検疫のために南の島に閉じ込められた宣教師(吉﨑)が、下品で信仰心のない娼婦・ト厶ソン(米沢)と出会い、教化に乗り出す話だ。物語の他者を操ろうとし他者に振り回される様を、『Rain』は美術・音楽とダンサーの関係性によって舞踊化する。

舞台中央には、無数の紐を天井から吊るした四角形のインスタレーションが設置されている。その姿はまさに雨だ。冒頭、言葉にならない囁き声が流れ、積み重なっていく。声が宣教師とダンサーたちに纏わりつき、彼らは体を掻きむしる。やがて、白いドレスのトムソンが登場し、吉﨑は軽蔑に満ちた強固な眼差しと動きを見せる。娼婦を回心させたいという強い意志が発露する。だが、トムソンは臆せず宣教師を誘惑する。米沢のクラシックバレエのテクニックを基にした妖艶な旋回に、観客も酔いそうだ。旋回の一瞬に手先は空間を舐め、足は優雅な螺旋を描く。全身が圧倒的な存在感を放ち、客席と宣教師の視線を翻弄する。

それから舞台美術が上下し、人が踊る領域を侵食する。紐が踊り手に絡みつき、動きを制限する。頑強な意志を持つ宣教師と、自由奔放なト厶ソンも例外ではない。環境がダンサーの動きを規定し、ダンスが環境によって作られている。はたして、ダンサーとは主体的な存在なのだろうか。それだけではない。我々も環境によって行動を制限されているのではないか。

振付家は自由意志を肯定する。終盤で、ト厶ソンは行く手を遮る人々を払い除け、水を掻き回すように腕を回転させる。するとダンサーたちは床を転がり始める。ト厶ソンが渦を作り、人間たちを巻き込む様子は、自身が踊ることで、場を支配し主体性を獲得するかに見える。実は米沢が空間の核になり踊り手や観客を惹きつけたことが、以前にも起こっていた。宣教師を誘惑した米沢の踊りだ。彼女は自らの踊りだけで空間を支配し、何にも囚われない存在だった。

『Rain』は音楽と美術によって環境を作り出し、自由意志への疑問を浮かび上がらせた。そして、その問題に鈴木竜の演出・振付と米沢唯の踊りが答え、人間の可能性を我々に示した。

杉本昇太(鑑賞&レビュー講座2022修了生)

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ダンサーとしても国際的な活躍を見せる鈴木竜が、モームの短編『雨』を題材に、愛知県芸術劇場でフルレングス作品の演出・振付に挑戦した。主演は、地元出身で新国立劇場バレエ団プリンシパルの米沢唯。日本の現代舞踊を担う吉﨑裕也やDance Base Yokohamaの若手ダンサー6名と初共演し、バレエで培った身体性が一層際立った。

また、本作は大巻伸嗣(美術)とevala(音楽)との共同制作だ。小ホールの天井には大巻の『Liminal Air - Black Weight』に着想を得た装置が据えられた。吊り下げられた無数の黒い組紐によって空中に立体的な“影”が浮かび、このオブジェを上下させて場面を変化させる仕掛けだ。evalaが書き下ろした音楽は会場を取り囲むように配置されたスピーカーを通じて立体的な音響空間を立ち上げ、観る者を没入的な鑑賞体験へと誘った。

舞台は雨が降りしきる南洋の小島。検疫のために停泊した船が雨季の影響で出航の見合わせを余儀なくされたことから物語は始まる。未開の地での布教に燃える宣教師デイヴィッドソン(吉﨑)が同船の乗客だった品性下劣な娼婦トムソン(米沢)の教化に乗り出す。毎晩、密室で説教が繰り返されるが、終いに彼は謎の自死を遂げる。

鈴木の演出では、物語は抽象的なイメージに置換される。写実的な島の風景や雨音といった直接的なモチーフは現れない。米沢が白い薄手のワンピースに身を包むほかは美術も衣裳も黒を基調としている。原住民や他の船客など、群舞が担う登場人物の配役は流動的で、身体の律動や衣裳の脱ぎ着といった、極めて削ぎ落した手法で人物像や情景が浮き彫りにされた。

また原作は、同じく島に滞在する医師マクフェイルの視点で描かれるため、デイヴィッドソンがトムソンに説教を施す場面は壁の向こう側の出来事である。一方本作では、観客はその一部始終を目撃することになる。“影”の奥から現れた吉﨑が手持ちの大きな照明で強い光線を米沢らに向ける。米沢は一人その光に対峙し、ついには照明を奪って吉﨑を照らす。一瞬、米沢が不敵な笑みを浮かべると、二人は“影”の中へと消えてゆく。デイヴィッドソンの歪んだ正義感が敗北し、そのベクトルが死へ反転した瞬間である。そして身を燃やすような激しいデュオが繰り広げられ、クライマックスを迎える。

鈴木は「物語をなぞるのではなく、その中に込められたモームの自由意志への憧れを表現したい」と初演前のインタビューで明かしている。野性的に地面を踏みしめる米沢の足取りには、自律的な人間のイメージが強烈に刻まれており、コロナ禍で自粛という身体の制限を経験した私たちにとって痛切な実感を伴う上演だった。

公演二日目、名古屋では小雨が降り、劇場の周囲に重く湿った空気が漂った。今夏には全国ツアーが、秋には海外ツアーも予定されている。『Rain』が今後どのような湿気を纏うのか。再演での深化に期待したい。

冨士本学(鑑賞&レビュー講座2022修了生)

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